<アカウント型保険に気をつけて>
朝野一夫さん(20代後半の独身男性・昭和48年生まれ・賃貸マンション住まい)の場合


 私達が個人に対する保険のコンサルティングを無料で行なっているということは、あまり知られていませんでしたが、事務所の開設でお世話になったSEさんからご相談を受けました。
 20代後半の彼は第一生命の定期付き終身保険と住友生命の個人年金保険に加入しているのですが、最近職場に明治生命の外務員さんが立ち寄り、LAという新商品への乗換えを盛んに薦められているということでした。
 「昔の保険に比べて保険料は安くなり、大型保障と同時に積立ができ、すばらしく発展した画期的な生命保険だと聞いているのだけれど、分厚い説明書の内容がよくわからないので、その資料の内容を判りやすく説明してもらえないでしょうか。」という依頼でした。
 早速、現在加入している保険証券と外務員さんからもらった資料をお預かりして、その内容の分析に取り掛かりました。
 朝野さんが、現在加入している保険の保障内容は次の通りでした。

   定期付き終身保険:
     災害死亡の場合の保険金 2,300万円 (60歳まで)
     普通死亡の場合の保険金 1,800万円 (60歳まで)
    (上記に加えて死亡の場合の遺族年金=120万円/年×10回確定)
     疾病入院の場合の入院給付金日額 5,000円 (60歳まで)
     災害入院の場合の入院給付金日額 5,000円 (60歳まで)
     保険料月額 10,715円
   個人年金保険:
     60歳からの確定年金 60万円/年 (10年確定)
     保険料月額  9,810円
   一時払い養老保険:
     満期保険金 100万円 (保険期間10年)
     保険料支払済み
   合計月払保険料 20,525円

 独身で賃貸マンション暮らしの20代男性としては、不足のない内容でした。

 さて、外務員さんからもらった資料はどのようなものかと言うと、
 毎月の支払金額は20,000円で死亡保障が5,200万円ついている。アカウント型の商品で貯蓄の機能があり、現在の契約よりもお金が貯まり(65歳で約653万円)、毎年保障と保険料の見直しができる。医療保障(入院給付金)は、がん3万円、成人病2万円、災害1万円がついており、何よりも、今後、毎月の支払金額が上がらない。という良いこと尽くめのものでした。
 また、同封されているチラシには、「昔に比べて最近の保険は保険料が安くなっている」と説明されているものと「昔の保険は支払った保険料のうち貯蓄部分が不明で、契約者貸付の金利が高い」と説明されているものがあります。
 ご本人はその資料にかなり惹かれているような状況でしたので、これらの資料の本当の意味を正しく伝えることが必要であると感じました。
 それでは、彼に対して説明したコンサルティングの内容をここでご紹介しましょう。
 まず、アカウント型商品とは何かということから始まります。これはちょうど銀行の普通預金口座のようなものを保険会社に用意することです。そこに毎月お金を預け入れ、積み立てられたお金から毎月の保険料を支払っていくという仕組みとなります。保険料として支払われた金額以外の残額部分は積立金としてアカウント(口座)に累積されてゆきます。
 毎月2万円をこのアカウントに支払った場合の設計書は、とても悲惨な内容でした。
 まず、前提条件として「(死亡保障や医療保障の)特約は更新しない」と記載されています。つまり、契約後10年を経過した後には、ほとんど生命保険としての保障が無くなることを前提としているということが、顧客にはっきりとはわからない表現で記載されています。保障が全く無いと言われないために、巧妙にわずか125円だけは特約保険料として支払われるよう「障害状態による特別終身特約」だけが残されています。口頭で説明されると「生涯の特別終身保障?」と聞き間違える絶妙なネーミングです。
 125円分しか保障のない保険のために、10年後から毎月2万円もお金を払い続ければ、現在の保険よりお金が貯まるのは当たり前のことです。ご本人は、5,200万円の死亡保障と大きな医療保障がずっと付いているというように考えていましたが、そうではないと説明すると信じられない様子でした。決して嘘は記載されていませんが、10年間は気がつかれないかも知れない(10年後には更新手続きで判明してしまう)顧客の誤解を利用するような内容でした。
 さて、それでは(死亡保障や医療保障の)特約を更新していった場合にはどうなるのかということも説明する必要があります。ノートパソコンで表計算ソフトを使って説明するには時間が掛かりません。
 最初の10年間、毎月20,000円の保険料を支払ってゆくとアカウントには毎月1,700円しか積み立てることが出来ません。それと共に、10年毎の特約の更新により特約保険料は急激に高くなってゆきますから、月々の支払額は2万円では足りなくなってきます。しかしながら、この点についても、毎月1,700円づつ積み立てたらという例のみが記載されており、そのためには将来、毎月2万円以上の支払が必要になるということについては全く記載されていません。当然ですが、月々1,700円の積立てでは35年間では約75万円しか貯まらない結果となります。
 10年毎の特約の更新の度に毎月の支払金額が、3万円、5万円、7万円と高くなってゆくのだということを理解してもらう為には、LAのパンフレットを具体的に説明する必要性が生じてしまいました。
 非常に巧みに作成されたパンフレットの場合、本当はどうなのかということを明確に理解してもらうためには、記載されている内容を一つ一つ確認しながら表計算シートに転記してゆくこととなります。
朝野さんに隣に座ってもらい、縦方向に年齢、横方向に毎月の支払金額、特約保険料、差引積立額と見出しをつけて、パンフレットどおりの23歳から65歳までの表を作り上げました。その表に、パンフレットの端っこに小さな活字で記載されている数字を転記してゆきます。
 あっと驚くことに、このパンフレットの事例では、毎月の特約保険料は58,663円まで上がりました。それでも50歳以降は単年度の積立金の積み増し額が赤字となって積立金が減っていきます。また、積立金の累積額も保険料払込期間の終了を待たずに赤字となってしまいます。えっ!と驚きパンフレットを再度点検すると47歳と50歳および56歳の時に65万円、95万円、390万円の中途入金(一時金の投入)がなされています。月々の支払以外に550万円の中途入金をしないと支えられないプランなのです。しかし、ささやかな中途引出(30万円と15万円)が絶妙にその前に連続して記載されており、アカウントへの一時金の出し入れが自由だ、という説明となっています。15万円の中途引出しも、390万円の中途入金も、表現される図の大きさは同じですから気がつかないのも当然かもしれません。
 いずれにせよ、このプランで必要となる保険料総額がいくらになるのかということは簡単に計算できます。表上で集計したところ何と2,000万円を超え、それを全体の月数で割ってみると平均月4万円を越えることが判明しました。
 ところで、医療保障の本当の内容はどうなっているでしょう? この点について説明しようとすると、今度は朝野さんも「これにも何かあるんでしょうね!」と興味深々で質問してきます。そうです。こんなふうに考えてください。外務員さんから説明されていないのはどの部分でしょう? がん、成人病、災害とくれば、残されているのは「それ以外」の部分です。円グラフで書くと判りやすいでしょう。がんでも成人病でもない一般的な病気です。がんや成人病ではない病気の場合、入院給付金日額は7千円でしかありません。がんや成人病以外の病気の場合に保障が少なくて済む理由は何ですか?と聞かれると明確には答えられないと思います。最近は医療技術が進歩し、重大な病気でも治療により死亡を免れることが増えています。そのため、入院や手術に対する医療保険のニーズも増大してくる傾向にあります。医療保険は、がんや成人病等の場合の上乗せ保障のトッピングがどれだけ付いているかも大切ですが、基本的な部分がどうなっているのかを最初に確認することが何より重要であると思います。
 現在加入している保険と比べてどうでしょうか? 一生で負担することとなる保険料の支払総額と保障金額の関係、独身で5,200万円の死亡保障が今すぐに必要ですか、本当は今、一日あたり5,000円しかない医療保障を少し増やすだけで十分ではないでしょうか? そうアドバイスさせて頂きました。
 ちなみに、添付されていたチラシについても説明を付け加えました。まず、「保険料は年々安くなっています」というチラシです。これは掛け捨て型の短期の定期保険について記載されたものでした。決して、積立型の終身保険などに当てはまる内容ではありません。まして、「アカウントにお金が貯まります」ということとはあまり関係のないものです。次に、「昔の保険は契約者貸付の金利が高い」などと書かれたチラシです。これは終身保険に関するもので、「予定利率が5.5%だった時の保険で契約者貸付をすると利息を5.75%も取られます」という内容と「月々の保険料が安いため払込保険料に比べて解約払戻金がなかなか追いつきません」という内容が記載されていました。嘘は書かれていませんが、ほとんどこじつけのような議論です。予定利率が5.5%だった頃の終身保険は、現在の予定利率1.5%程度の終身保険に比べ、同じ保障に対して保険料が半額以下で済む「契約者にとても有利」な商品です。そのあまりの有利さの反映として、仮に契約者貸付をした場合、貸付利率がチョット高くなる、ということです。積立金が高い予定利率で運用されていることを考えると決して損になるような話ではありません。これらの契約は保険会社にとっては逆ザヤの原因となるため、転換などの話法で積極的に消滅させてゆく必要があるのでしょう。ここまで露骨な営業姿勢が端的に現された資料を見たのは私たちも初めての経験でした。
 当社では、このような過去に契約された「お宝」終身保険をお持ちの方には、この終身保険部分だけは、何があっても最後まで転換も解約もしないように勧めています。

 明治生命の外務員さんは松・竹・梅の3通りの似たような提案を持ってきて、その中からどれにしましょうか、というアプローチだったのですが、以上の説明に十分納得した朝野さんの答えは当然、「どれもいらない」でした。