【Inswatch】154 <7/14/2003>

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【2】保険業界随想(6)                   坂本 嘉輝

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「第3の破綻処理法制」の国会通過手続き  

一昨日、7月12日にはRINGの会オープンセミナーが600人を越える参加者を迎え 盛大に開催されました。私も参加しましたが、その圧倒的な迫力、熱気に当てられ てきました。このInsWatchの読者の方で参加された方も多かったと思います。も しまだ参加したことのない方が居られたら、来年こそぜひ参加してみてください。 必ず何か得るものがあると思います。

◇参議院での審議  

ところで、予定利率の引き下げ法案の国会審議が着々と進んでいます。審議が、 というよりむしろ国会通過の手続きが、と言ったほうが良いかも知れませんが。  衆議院は本当にあっという間に通過し、その最後のセレモニーである本会議で の可決の際は自民党のうちの反対議員に対して除名をほのめかして脅すことまで して、与党一致で可決という形を取りました。  

審議は参議院に移り着々と進行中、と言いたい所ですが、民主党の議員が朝日 生命の救済について、金融庁が東京海上を恫喝したミーティングのメモを持ち出 し、審議はしばらく混乱しています。法案の審議の場である財政金融委員会だけ でなく、予算委員会にもその議論が波及し、いよいよ国会終盤のクライマックス の一つになりつつあります。これで民主党の見せ場ができ、法案の内容の審議が どこかにいってしまった挙句に与党の賛成多数ですんなり法案可決、ということ になるのでしょうか。  

衆議院の方は解散総選挙の話でもはやこの法案の行方など誰も関心を持ってい ないようです。マスコミも衆議院通過で安心したのかもはや関心も薄れたようで す。それにしても、小泉さんの踏み絵問題の議論はおかしな議論ですね。公約を 破ることをなんとも思っていない人が新たに作ろうとする公約が踏み絵になって、 最初にそのご当人が公約を破ったらそれに振り回された人の立場はどうなるので しょう。

◇公聴会応募  

本題に戻って、保険業法改正案の国会の審議では入れ代わり様々な著名人が参 考人として意見を表明していますが、先週の木曜日(7月10日)にはこの参議院 財政金融委員会で公聴会も開かれました。「参考人」というのは、委員会の方で 意見を聞きたい有識者を選んで委員会に来てもらい、意見を言ってもらうのです が、「公聴会」というのは逆に意見を言いたい人を募集し、応募した人の中から 何人かを選んで、意見を言ってもらうという制度です。例えば inswatchの寄稿者 の一人である高橋伸子さんも参考人として招待される著名な有識者です。  

私も保険会社に属さないアクチュアリーという立場はちょっとユニークなので、 この機会に意見表明をしてみたいと思ってこの公聴会に公述人として応募したの ですが残念ながら落選し、晴れの国会デビューを果たすことができませんでした。

◇実は保険金額削減法案  

その分当日の7月10日はある保険会社の代理店会のセミナーで、11日は自分の会社(アカラックス)で企画した代理店さん向けセミナーでこの法案について解 説しました。主旨は別途どこかにまとめるつもりですが、要するに今回の通称 「予定利率引下げ法案」というのは法律をしっかり読むと、実は保険金額削減法 案であり、保険業法にもとづく行政命令による破綻処理、更生特例法による破綻 処理に続く、第3の破綻処理法制だということです。  

マスコミをはじめとしてほとんどの人が今回の保険業法改正案を、予定利率引 下げ法案と呼び、その結果どうしても議論の内容が予定利率や逆ざやの方に片寄 ってしまいます。これを保険金額削減法案といいなおすだけで印象もまるで違っ てくるのではないでしょうか。

 この点をしっかり抑えた上で、改めて今回の法案の内容を再確認してみてはい かがでしょうか。もしかすると何か新しい発見があるかも知れません。特にこれ が破綻処理法制で、破綻している会社の処理のための法律をまた新たに追加しよ うとしているんだ、この法律の適用を受ける会社は破綻している会社なんだ、と いうことがはっきりすると、見えてくるものもあると思います。もちろんここの ところの解釈は金融庁や竹中大臣、小泉総理大臣とは異なります。3000億円ほど 繰延税金資産を減らされて破綻したりそなに対して2兆円の公的資金を投入し、あ くまで破綻ではない、と言い張っているこれらの方々は当然、今回の保険業法改 正案も破綻処理ではない、破綻前の破綻回避策だ、などといっていて、そのため にいつまでたっても本質的な議論が出来ないままでいます。

◇新刊PR  

このinswatchでも生命保険入門という記事を連載させていただいていますが、 これよりもう少しやさしい、保険のことを専門にしていない一般の消費者でも読 めるような生命保険の入門書を出版しました。『アクチュアリーの書いた生命保険入門』という本です。木曜、金曜のセミナー、土曜のRINGの会の横浜オープン セミナーでも大勢の方に買っていただきました。今週あたりから大きな本屋さん には並べられるかもしれません。店頭になくても取り寄せができるようになるよ うです。お急ぎの方はこのメールマガジンの最後の方についているアドレスに直接申し込むと出版社から本が直送されます。楽しく読んでいただけるように書い たつもりです。読んでみてください。

(生命保険アクチュアリー、アカラックス(株)代表取締役) http://www.acalax.jp