【Inswatch】145 <5/12/2003>

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【5】保険業界随想(4)                   坂本 嘉輝

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生保3月期決算と予定利率引下げ問題の「論点整理」メモ

◇決算発表控え生保関連の報道相次ぐ  

5月3日〜5日の3連休の直前になって三井生命が三井住友銀行の子会社にな る形で株式会社化する、という記事が日経新聞のトップを飾りました。即日三井 住友銀行はこのニュースを正式に否定するニュースリリースを出しています。http://www.smbc.co.jp/news/j100138_01.html  

いずれにしても時間の問題でこの方向性は変えようがないだろう、と皆が思っ ているのですが、日経新聞のトップ記事になってその直ぐあとに相手方から正式 に否定される、というのはなんとなくいやな感じがします。  これに対抗するかのように、連休明け早々の5月6日、朝日生命は新しい経営 戦略が着実にうまくいっている、という旨の発表をしています。 http://www3.asahi-life.co.jp/pdf/p030506/030506.pdf  

この3月期の決算に関していくつかの計数を発表していますが、それだけで本 当に良い、と言えるようなものではないように思えます。  

注目すべきは朝日生命がここで正式に基金利息の支払いを行わないことを発表 していることです。これはその日行われた決算取締役会での決議をもとにした発 表です。取締役会終了後、遅滞なく(直ぐに)その取締役会で決まった決算内容は 正式に金融庁に報告されているはずです。この正式報告を受けて金融庁はどのよ うな行動をとるのでしょうか。それとも相変わらず何もしないのでしょうか。注 目したいところです。  

同様に基金の出し手であるみずほ銀行、りそな銀行もこれをこの3月期の決算 にどう取り込むのか興味のあるところです。

◇予定利率引下げの動きも急に  

また同時に連休明けから予定利率引下げ問題で動きが急になっています。5月 7日に金融庁は与党と相談するために『論点整理』メモを用意してスタートを切 りました。この内容は5月8日の日経金融新聞で公表されています。  

5月10日の日経新聞によると、金融審議会が急遽5月12日に開かれるよう です。とはいえお役所がもう週明けには法律案(の要旨)を作って自民党と協議 を開始するといっていますので、この審議会も予定利率の引き下げについて審議 する、というよりもお役所の用意したものを形式的に承認するだけのセレモニー でしかないような気がします。 (『論点整理』メモは日経金融新聞の5月8日朝刊、5ページの下のほうに載っ ています。お手元にない方はお知らせくださればFAXでお送りします。TEL  03-5209-1251、FAX 03-5209-1259、e-mail sakamoto.y@acalax.jpに御連絡く ださい。)  

『論点整理』メモでは対象となる保険会社として、『将来において保険業の継 続が困難になるがい然性がある会社』わかりやすく言い換えれば『将来経営が行 き詰まる可能性がある会社』を予定利率引下げの対象にしようとしています。将 来にわたって経営が行き詰まる可能性がない会社なんてあるのかな、と思います が、それはさておき、ここでもう既に金融庁の意図としては今回の予定利率の引 き下げを保険会社の破綻処理の一部、というか破綻処理の前段階での処理、とし て位置付けていることがわかります。  

契約者と保険会社の関係は保険会社が相互会社である場合と株式会社である場 合とで根本的に異なっているはずなのですが、今回の論点整理メモでは相互会社 の場合だけでなく株式会社の場合でも同じように予定利率の引き下げをできるよ うにしようとしているようです。これでなおさら破綻処理に近いものだというこ とがわかります。

◇課題残る『論点整理』メモ

『論点整理』メモでは解約停止期間を設けることを想定しているようです。一方 で早期解約控除については何も触れていないのでこの考えはなくなったのかもし れません。  

それにしても何でこんな事を考えなければいけないのでしょう。責任準備金の 切り下げがなく、早期解約控除もないのであれば個々の契約者にとって(保険会 社にとっても)、直ぐに解約しようと予定利率引下げの手続きが終わってから解 約しようとあまり差はないことになるはずですから。そう考えると『論点整理』 メモで早期解約控除に触れていないのは議論を複雑にしないためにわざと触れな いでおいて、法律化の最終段階でいつのまにかもぐりこませる、ということを考 えているのかもしれません。  

この他にも『論点整理』メモにはいくつもの問題点がありますが、全てについ てコメントするとチョット長くなりすぎてしまいます。これについては稿を改め てその後の動きなども含めながら触れていきたいと思います。いずれにしても金 融審議会の反応や与党の先生方がどう動くかなど、当面事態の推移から目が離せ ない状況が続くことになりそうです         

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.linkclub.or.jp/~lax