【Inswatch】132 <2/10/2003>

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【5】保険業界随想(2)                   坂本 嘉輝

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誰のためのコンプライアンスか

イラクの戦争、北朝鮮の崩壊が刻一刻と迫っている中、いよいよ決算の3月末が近づいてきました。  大手銀行はなりふりかまわぬ自己資本の増強策を発表しています。問題は2つ、それだけ多額の資本調達が本当にできるのか、そして、その資本金の増額で足りるのか、ということです。予定していた資本調達ができなかったら大問題になりますし、仮にそれができたところでそれでも自己資本が不足しているということになったらさらに大きな問題になります。3月末に向けての株、債券、為替の値動きから目が離せません。

◇竹中大臣の『ETFは絶対儲かる』という発言  

そんなさなか、竹中大臣の『ETFは絶対儲かる』という発言が飛び出しました。竹中大臣はあまり金融の実務をやったことのない人だし、学者というのは何でも言いたいことを言って誰からも責任を問われないという人たちで、竹中さんはその学者出身の人ですから、単純に思ったこと、そうなってもらいたいことを言ってしまったものでしょう。コンプライアンスなどということは多分念頭になかったことだと思います。

しかし、金融の実務に携わっている人は竹中大臣の発言を新聞やテレビで見聞きしたとき(どうも竹中さんは全く罪の意識なしに得意げにマスコミに説明したようです)、即座にその問題に気がついたに違いありません。仕事の性格上、コンプライアンスは場合によっては生死にかかわる(というのは大げさですね、しかし、仕事を続けていけるかどうか、という意味ではビジネスの生死にかかわる、といってもいいかもしれません)大きな問題ですから、自分の発言・行動、他人の発言・行動については常に注意しているはずです。  

竹中さんは国会で民主党の議員に攻め立てられ、ひたすらごめんなさい、で逃げ回り、なんとなく終わってしまったようです。罪の意識のない人をあんまり責めてみてもどうしようもないですが、その人が経済財政・金融の担当大臣だ、というのは何とも情けない限りですね。

◇金融庁のHPへの掲載と削除  

ところで竹中さんのこの発言は金融庁のホームページにもそのまま載っていたようです。国会で問題になってから急遽その部分が削除されました。  

問題は、この問題発言が金融庁のホームページにそのまま載った(すなわち、お役人の誰かがそれを載せた)、ということと、民主党の議員に攻め立てられるまで竹中大臣に発言を取り消させるような動きを金融庁のお役人がしなかった、ということです。国会で問題になる前に自分から謝ってしまえばそんなに大きな問題にはならなかったのではないか、と思います。  お役人も新聞やテレビで竹中さんの発言を見聞きしていたはずですが、そのとき、その問題に気がつかなかったのでしょうか。あるいは気がついたけれどそのままほっておいた、ということでしょうか。

◇お役人のコンプライアンス感覚  

お役人は法律を作るのは自分たちの仕事、法律を適用するのは自分たちの仕事、法律の解釈を決めるのは自分たちの仕事、その結果として誰かを罰したり罰しなかったり決めるのは自分たちの仕事、という風に思っていて、自分たち、あるいは自分たちの仲間が法律で罰せられるなどということは考えてもいないのでしょう。  

マスコミもどういうわけか竹中さんばかり責めて、金融庁のお役人を責めるような記事はあまり目にしません。結局これでいつものようにあいまいなままに一件落着、ということになるのでしょうか。民主党の議員さんも竹中さんを謝らせた、ということで満足なのでしょうか。  

金融行政では重箱の隅をつつくような感じでコンプライアンスに関して非常に神経質になっています。お役人のいうこと、それを拡大解釈した保険会社のいうことを聞いて文句を言われないようにするのもいいのですが、その前に、一体何のためのコンプライアンスなのか、誰のためのコンプライアンスなのかしっかり考える必要があるのではないでしょうか。  お役人のためのコンプライアンス、保険会社のためのコンプライアンスより、お客様のためのコンプライアンスを最優先に考える必要があると思います。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.linkclub.or.jp/~lax