【Inswatch】132 <2/10/2003>

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【5】保険業界随想(1)                   坂本 嘉輝

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保険会社のガバナンスと金融庁の監督責任

◇はじめに  

一昨日と昨日(2月8日、9日)、このInsWatchでも折に触れて紹介されるRINGの 会のオフ会が鳥取県の米子で開催されました。  

RINGの会というのは、プロの保険代理店の全国的な集まりで、普段はメールマ ガジンとインターネットメールを中心としたコミュニケーションの組織なのです が、年に2回、『オフ会』、と称して実際に集まって情報交換、意見交換をして います。(これ以外に、年1回、『オープンセミナー』という名前で会員以外の 方々にも声をかけて勉強会をしています。)  

その『オフ会』に私も参加したところ、このInsWatchの編集人の一人である中 崎さんから、私の記事について、注文がついてしまいました。  

今まで、『代理店のための生命保険入門』というタイトルで毎月1回ずつ記事 を掲載させていただいてきました。最初のうちは本当に生命保険入門といえるよ うな記事の内容だったのですが、最近は私の会社の代理店ビジネスの実況中継を してみたり、かと思うと予定利率の引き下げ問題や朝日生命の問題など、『生命 保険入門』とは言えないような記事の内容になっていて、それは羊頭を掲げて狗 肉を売るようなものだ、ということです。  

私としては、これらの記事も、アクチュアリーとしての私がどのように考え、 感じているかという意味で、広い意味で『生命保険入門』といえるのではないか、 と思っていますが、それと同時に、中崎さんの指摘ももっとももです。  

このような記事を書くのであれば、タイトルを変えるように、ということで、 『保険業界を斬る』というタイトルにしてはどうか、ということでした。  私は平和主義者でもあり、世の中に波風を立てるのも好きではないし、別に保 険業界を斬るつもりもないし、もう少し穏やかに『保険業界随想』なんてどうだ ろうか、ということで、この連載を新たに始めさせていただきます。

◇ユナムジャパンへの行政処分  

さて、今回のテーマは、保険会社のガバナンスと金融庁の監督責任についてで す。先日、ユナムジャパン傷害保険株式会社という長期所得補償保険を主力とし ている保険会社に対して金融庁は約1ヶ月間の業務停止命令を含む業務改善命令 を出しました。
http://www.fsa.go.jp/news/newsj/14/hoken/f-20030109-1.html  

金融庁によると、ユナムジャパンは取締役がいないのにいることにしたり、取 締役会を開いたことにして虚偽の取締役会議事録を作ったり、常勤監査役がいな かったり、あるいは募集行為に関していろいろ不正なことをしたようです。  多分、ここに書かれていること以外にもいろいろな問題があったのだろうと思 いますが、1ヶ月間の業務停止というのはチョット期間の長い処分です。とはい え、最近では金融機関の業務改善命令、業務停止命令などはあまり珍しいことで はなくなっているので、その点では驚くようなことではありません。

◇金融庁、支店への変更でガバナンス改善求める  

ただし、ここでチョット目を引いたのは、ユナムジャパンの会社としてのガバ ナンスの改善のために、金融庁が『現地法人形態から支店形態への変更等』即ち 『日本の株式会社(現地法人)になってるものをアメリカの会社の支店にする』こ とによりガバナンスを改善するように、といっていることです。  

これは文字通り素直に読めば、金融庁は監督官庁としてユナムジャパンの監督 を十分することが出来ないので、親会社であるアメリカのユナムがもっとユナム ジャパンをきちっと監督してもらいたい、そのために、独立した日本の法人であ る子会社のユナムジャパンを支店形式に組織変更して親会社の支店にして親会社 が直接監督できるようにしたらどうだろうか、ということです。  

ユナムジャパンが日本の株式会社である限り、商法にもとづいて取締役を選任 し、代表取締役を選任し、取締役会を開いてその議事録を作らなければなりませ ん。監査役も選任しなければなりません。これがアメリカの会社の支店であれば 日本における代表者を指名するだけですみます。取締役も必要ないので取締役会 を開く必要もないし、その議事録などをでっち上げる必要もありません。監査役 がいなくてもかまいません。

◇支店変更アドバイスの真意は何か  

金融庁はこのような考えで、後追いで事態を正当化するために日本法人を支店 に変更するようにアドバイスした、なんて事もないでしょう。法律的には問題が なくなるかもしれませんが、事態が改善されるわけではありません。経営の責任 者は日本における代表者ただ一人になってしまい、日本支店に関する意思決定は その人一人の一存でどのようにでもなるようになります。  

ガバナンスの点からはちゃんとした日本法人のままの方がいいに決まっていま す。金融庁には、その日本法人に対してきちんと日本の商法に従った事業のやり 方をさせることが出来ないのでしょうか。  

ユナムジャパンがアメリカの会社の支店になったとしても日本の金融庁がアメ リカの会社に命令するわけには行かないし、アメリカの監督官庁に頼んで日本の ビジネスの監督をしてもらうことも出来ないし、金融庁が本気で日本の保険会社 (外国の保険会社の子会社であっても日本で事業をしていれば日本の保険会社で す)をきちんと監督するつもりがあるのであれば、こんな事は言わないと思うの ですが、いったいどんな意味で言ったのでしょうか。  

やはりもっと単純に、金融庁が監督責任を放棄したがっている、というように 理解した方がいいのでしょうか。         

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役)
http://www.linkclub.or.jp/~lax