【Inswatch】156 <7/28/2003>

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【7】窓の外は立食いそば(無謀な新米乗合代理店の日常)    新越 博之

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(7)最近の生命保険コンサルティング事例から(特別編)

◇D生命の契約者が来ちゃいました。  

前編、後編に引き続き「生命保険の売り方の歴史」について特別編を書かせて 頂きます。今回は遠方からの相談事例で、エグい生保販売戦略の実態をご紹介す ることとします。

◇ずっと入っているのだが信用できない。  

30年もD生命に加入しているという契約者が、電話で相談してきました。あれこれ苦労して、やっと当社の電話番号を見つけたとの事です。お話を伺うと、ど うもD生命に対して強い不信感(これまで払ってきた保険料を踏み倒されるので はないか)を持ち、現在の保険契約をなかったことにしたいと希望している様子 でした。30分ほどの長電話をしたのですが、相談者が保険の素人であり、焦っている様子で要領を得ず、とにかく加入している保険の資料を送ってもらうことと しました。

◇変な証券  

送られてきた保険証券は、30年以上の加入と聞いていたのですが、最近に作成 されたばかりのものでした。「5年ごと利差配当付更新型終身移行保険」という名前の保険でした。保険種目は10年満期、でも指定年齢が75歳と表示されていま す。何を意味しているのかを理解するのに、かなりの時間を要してしまいました。 主契約は終期10年満期と表示され、保険金額1000万円と逓減基本保険金額1800万 円と基本年金額(支払回数10回)60万円と生存給付金額60万円、と書かれています。これも最初に見たときには「何のこっちゃ?」でした。

◇これは、忍者型アカウント商品  

やっと理解できました。あれこれ保障が書いてあった主契約は、便宜的に主契約という名札をつけた「10年特約の固まり」でした。そして特約にも別途10年の ものがあれこれ付いています。指定年齢が75歳と表示されているので、この保険はその年齢まで自動更新していくのだと思われます。ということは、アカウント型商品からアカウントを取っ払ったものと同じだとひらめきました。生存給付金 がチョコットだけ付いているところが最高に傑作です。

◇転換前の契約は「お宝契約」でした。  

証券の下の方には「転換特約」と小さく記載されていたので、転換された後の 契約であることが判りました。30年近く続けていたものと思われる転換前の契約 は、主契約の終身保険が500万円、定期特約が2,500万円の定期付き終身保険でし た。予定利率も5.5%と表示されています。「なんでこんな営業をするんだろ う?」とあきれ果ててしまいました。

◇「エグ」い転換  

相談者は58歳です。2年後の60歳で定年を迎えます。転換をしなければ、 定年と同時に主契約の保険料払込が満了する予定で、その後には500万円の終身保険がマルマル残るハズでした。60歳以降の医療特約の保険料はわずか月額 3,170円だったので、退職後も支払いに困るものではありませんでした。どういう手段を駆使したのか、この契約を転換で消滅させ、責任準備金を掛け捨て 型の主契約と特約に投入させ、75歳まで保険料を支払わなければ保障を継続で きない新商品に乗り換えさせていました。本人は、漠然と騙されているかも知れ ないと不安に思っていたようです。生命保険会社の予定利率引下げ問題がマスコ ミで取り上げられるようになり、漠然としていた不安が大きくなり、居ても立っ ても居られなくなり、当社に相談してきた次第でした。

◇担当者はもういない、新しい担当者は親切?  

この保険は「定年目前の人に、もうすぐ払込が満了する終身保険を転換させて、 加入を勧める保険ではありません」とお伝えした処、「やっぱりそうですか」との返答が返ってきました。翌週、相談者はD生命の担当者宛てにクレームを挙げ たのですが、「そのデザイナーはもういない」と突き放されてしまいました。そ して更に翌週には、別の外務員が相談者を尋ねて来て、「これはひどい。私はこんな保険をとても勧められん!今3万の保険料は次の更新で8万になります。今す ぐに解約して新しいのにしましょう!最初の2ヶ月だけ満額払ってくれたら、要 らない特約を削って保険料を安くしてあげます!」と解約・新契約を薦める始末 です。この事例は、最初の訪問の時から組織ぐるみの行為だったと思います。

◇転換を取り消せるか?  

相談者は、定年後15年も3万円以上の保険料を払い続けることはできないと悩 んでいます。何か前向きなアドバイスをする必要があると強く感じたため、初め て、消費者契約法や金融商品の販売等に関する法律の説明を行なった上で、生命保険相談所への苦情申出と裁定審査会での調停?をお薦めすることとしました。 今回の事例では、D生命が契約者保護を完全に無視していると考えます。全国では同じような被害者が多数発生しているものと思います。こんなことでは、生命保険業界の健全な発展など「遠ざかる夢のまた夢」と感じます。      

(アカラクシア(有)マネージャー、カスタマーサービス)
http://www.acalax-ia.co.jp