【Inswatch】155 <7/21/2003>

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【4】代理店のための生命保険入門(28)            坂本 嘉輝

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

生命保険の基本的な仕組み(6)

責任準備金の計算の前提となる考え方  

予定利率引下げ、契約条件変更のための保険業法の改正案が予定通り参議院も 通過しました。今後、これにあわせて政省令(施行令と施行規則)が作られ、法律 がいよいよ施行されます。

◇絶妙のタイミング  

まさにこれにタイミングを合わせるように当日の新聞は三井生命の株式会社化 について触れています。  

三井生命が正式に発表したものではないのでこれを鵜呑みにするわけにはいき ませんが、いくつもの新聞が報道している所を見ると多分それほど違いはないん だろうと思います。三井住友銀行がどれだけの資本を出すか、他のグループ会社 がどれだけか、グループ以外の会社がどれだけか、ということがかなり詳しく書 いてありました。ポイントはこの記事に書いていない所、すなわち契約者がどれ くらいの株主になるか、というところです。  もうしばらくすると今回の契約条件の変更の法律改正と、既に出来上がってい る基金を資本金に現物出資できるようにする法律と、これら全体を活用した株式 会社化の全体像が見えてくると思います。

◇責任準備金の計算の前提となる考え方  

さて、前回は責任準備金を計算する際、その前提となる考え方、即ち、実際の 死亡率、資産運用利回り、事業費率は保険料を計算する際使ったものと違ってい るのがわかっていても、将来に向けて責任準備金を計算するときにはその違いを 考慮せず(その違いはあくまで過去に関することであって、将来に関してはあく まで最初の仮定と同じだと考えて)、最初の予定通りの死亡率、利率、事業費率 を使う、ということを説明しました。  

このように考えると、最初1万人いた被保険者が2年経った今、9800人になっ ているはずだったにもかかわらず、実際は9850人生き残っていた場合には、その 9850人に対する責任準備金は当初予定通りの9800人に対する責任準備金の9850/ 9800倍、ということになります。  

ここまでくると、毎年の責任準備金の計算は割合簡単になります。当初予定し ていたとおりに死亡が起こり、利息が稼げ、費用が発生する、とした場合の毎年 の年末における収支残を計算し、それをその当初予定したとおりの年末の被保険 者数で割る、これを一人あたりの各年末の責任準備金率とする、あとはこの責任 準備金率に年末に実際に生き残っている被保険者数を掛けることで実際に年末の 責任準備金が計算できることになります。  

もちろんこれは、実際の年々の収支残を積み上げていった結果とは異なります。 この違いを明確にするために、前者の将来に向かって計算した責任準備金率を使 って計算したものを(狭義の)責任準備金といったり、将来法の責任準備金といっ たりします。これに対して後者の実際の収支残の積み上げによるものを、積立金 といったり、過去法の責任準備金といったりします。  

言葉の使い方としては、積立金vs責任準備金、過去法の責任準備金vs将来法の 責任準備金、という使い方になります。  (将来法の)責任準備金の計算の前提、即ち、過去の経験がどうであろうと、 将来に向かっては死亡率、利率、事業費率は当初仮定したとおりだ、という前提 にのっとると、将来に向けて保険の保障を確保するためには(将来法の)責任準 備金があればそれで十分だ、ということになります。過去法の責任準備金、ある いは積立金がこの将来法の責任準備金より多い場合には、それだけお金が余って いる、ということですから、それは皆で山分けしてしまってもいい、即ち利益だ、 ということになります。逆に、積立金のほうが責任準備金より少ない場合にはそ の少ない分だけお金が足りない、即ち赤字だ、ということになります。  利益を直ぐに皆で山分けしてしまうか、もう少し様子を見るために山分けしな いでとっておくか、山分けするにしても誰にどんな割合で山分けするか、という のはこれまた別の大きなテーマになります。また、赤字になったとき、その穴埋 めを誰がどのように負担するか、というのも別の大きなテーマです。利益のとき と赤字のときの考え方は原因としては責任準備金と積立金が一致しない、差があ る、ということですが、その差がプラスなのかマイナスなのかということでその 処理方法もまったく別に考えられます。  もちろんプラスであれマイナスであれ同じように考えることもできるわけです が、そのような考え方はあまり評判が良くないようです。それが今回の予定利率 引下げ、契約条件の変更法案に対する一般の消費者の反対意見につながっている ようです。  

しばらく前からこの『生命保険入門』の連載をさせていただいていますが、こ れよりもう少しやさしい生命保険入門の本を出版しました。このInsWatchの編集 人の一人の石井さんのやっている出版社、インスプレス社から出版され、績文堂 という出版社を通して一般の書店でも買うことができます。とはいえ、発行部数 がそれほど多くないので、大きな書店で運がよければ在庫が1冊、普通の書店で は取り寄せになると思います。出版社のインスプレス、あるいは私の会社のアカ ラックスに直接申し込んでいただければ、送料、振り込み手数料こちら持ちで本 をお送りいたします。読んでみてください。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.linkclub.or.jp/~lax