【Inswatch】150 <6/16/2003>

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【3】代理店のための生命保険入門(27)            坂本 嘉輝

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生命保険の基本的な仕組み(5)

死亡率の考えと責任準備金

予定利率引下げ、契約条件変更のための保険業法の改正案の審議があれよあれ よという間に進行しており、もう既に衆議院を通過してしまいました。じきに参 議院も通過して晴れて法案成立、ということになりそうです。  

自民党をはじめとする与党は何が何でもこの法案を成立させる覚悟のようです。 となれば法案成立後のいくつかの会社に関するシナリオももう既にどこかで出来 上がっているのかもしれません。  

さて、前回は責任準備金の計算の所までようやくたどり着きました。ちょっと 言い忘れていた大事なことがあるので、今回はその補足をしなければなりません。  生命保険はあらかじめ資産運用の利回りや死亡率などを仮定(予定)して保険 料を計算します。当然、実際の、現実の利回りや死亡率は予定していたものと異 なります。そのとき、どう考えるか、というのがポイントです。

◇死亡率についてのいくつかの考え方  

死亡率の予定が今年、1000人に対して10人死亡する(死亡率1%)、来年は 990人に対して11人死亡する(死亡率1.11%)、だったとします。  

これに対して今年実際に死亡したのが1000人に対して9人しかいなかったとし ます。来年の死亡率の仮定としてどのように考えればいいのでしょうか。  

今年10人、来年11人死亡する予定の所、今年は1人少ない9人しか死ななかっ たんだからその分来年は1人多い12人死んで、死亡率は1.21%になる、こんな考 え方があります。  

今年10人、来年11人死亡する予定の所、今年は1人少ない9人しか死ななかっ たんだから来年も死ぬのは1人少ない10人で、死亡率は1.01%になる、こんな考 え方があります。  

今年の実際の死亡率が多少予定からずれた所でそんなことで来年の死亡が左右 されるものではない、来年の死亡は当初の予定通り11人で死亡率は1.11%だ、こ んな考え方もあります。  

皆さんはどの考え方がお好みでしょうか。


◇生保ビジネスの考え方  

生命保険のビジネスの考え方は、3番目の考え方を採用します。すなわち今年 の実際の死亡数の振れは来年以降の死亡率には影響しない、ということです。こ のように考えると、今年の死亡数が1人少なくて生き残った人数が1人多くても、 その逆に今年の死亡数が1人多くて生き残った人数が1人少なくても、その生き 残った人数に対して来年死亡する人数の割合は変わらない、ということです。 言い換えれば今年の末に生き残った990人に対する責任準備金も、今年の末に生 き残った991人に対する責任準備金も、あるいは今年の末に生き残った989人に対 する責任準備金も、1人あたりの額は同じだ、ということです。  

前回はこのあたり、ほとんど議論しないまま、1人あたりの額は変わらないに 決まっている、というような書き方をしてしまいました。実は厳密にはこのよう な考え方から、年末に生き残っているのが何人であろうと、1人あたりの責任準 備金を計算し、それに人数を掛ければ全体としての責任準備金が計算できる、と いうことになるわけです。  

となればその1人あたりの責任準備金を計算するために、死亡(も利回りも) が全く予定通りにいったとした場合の全体の責任準備金を計算し、それを予定通 りに生き残っている人数で割ってやればいい、ということになります。  

ここで死亡について言ったことは利回りについても同様です。今年の実際の利 回りがいくつになっていようとそれにはかかわらず来年以降の利回りは当初予定 していたとおりだ、という前提で1人あたりの責任準備金を計算することになり ます。  それでは実際の死亡率や利回りは何の役にも立たないのか、ということになり ますが、これは、予定していた率と実際の率との差の一部を契約者配当で還元し たり、あるいは実際の死亡率が予定した死亡率と比べて常に安定的に低い(高い) 水準にある場合に予定死亡率自体を見直す、という場合に利用されます。1年1 年の予定と実際の差異は直接的には責任準備金の計算には影響しません。  

このように考えると1人あたりの責任準備金の計算はそれほど難しいものでは ありません。しかし、実際の計算のやり方には2つのまるっきり異なるアプロー チがあります。同じ1つの1人当りの責任準備金を計算するのですから計算結果 は当然一致するのですが、そのアプローチの仕方で計算される責任準備金の意味 合いが違ってきます。すなわち過去法の責任準備金と将来法の責任準備金と呼ば れるものです。次回はそのあたりの説明をしましょう。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.linkclub.or.jp/~lax