【Inswatch】129 <1/20/2003>

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【4】代理店のための生命保険入門(22)            坂本 嘉輝

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契約者から見た破綻処理と予定利率の引き下げの違い

◇朝日生命のミレア離脱の発表  

皆さん、新年明けましておめでとうございます。  

新年早々ですが、朝日生命が株式会社化をあきらめて(延期、と会社側は言っ ていますが)、ミレア保険グループへの参加も白紙に戻す、という発表を行いま した。 東京海上が、朝日生命の株式会社化とミレアへの統合の前倒しの朝日生 命からの申し入れをちょうど1年前に正式に断って、それから1年、いよいよ決 着をつけるときが来たのでしょうか。 

朝日生命のホームページには関連する記 事がありますが、ミレアのほうには今のところ何の記事も見当たりません。
http://www3.asahi-life.co.jp/pdf/p030110/030110_1.pdf
http://www3.asahi-life.co.jp/pdf/p030110/030110_2.pdf  

朝日生命の説明では株式会社化をするには自己資本が不十分だ、ということの ようですが、会社がやろうとしている経営改善計画が本当に実現できるのであれ ば、そして自己資本があるのであれば、自己資本を既契約者に割り振るだけの株 式会社化に支障があるとは思えません。もちろん、自己資本がないのであれば株 式会社化はできませんが、それは会社が債務超過、ということであり、破綻処理 をしなければならない、ということでしょう。

◇昨年末に決まった契約者保護機構の資金問題の方向  

昨年の年末には生保の契約者保護機構の資金問題も、年末のドサクサ紛れに民 間生保の負担増額が決まり、公的資金枠も延長される、という方向になったよう です。予定利率の引き下げ問題もいよいよ本格的な議論が開始されるのかもしれ ません。今回も代理店ビジネスの実況中継をお休みしてこれらに関連する問題に ついて考えてみたいと思います。  

契約者保護機構では、破綻した生保会社の破綻処理のために、既契約者に対す る契約条件の引き下げと破綻した会社の引受先企業による資金拠出で不足する分 を資金援助して、既契約者が契約を続けられるようにしています。バブルがはじ けて生保会社の破綻は日産生命から始まって7社を数えますが(日産、東邦、第百、 大正、千代田、協栄、東京)、民間生保の資金援助枠の5600億円はもう既にほとん ど使い果たしてしまっており(残高が200億円くらいだそうです。)、公的資金 枠の4000億円は絵に描いたもちで実際には使い物にはなりません。  

この残った200億円を1000億円まで増やして、それと同時にこの3月末で期限 切れになる公的資金枠4000億円をもう3年間延長しよう、という話です。  

生保各社で作っている契約者保護機構は昨年末にこの話を飲む決定をしました。公的資金枠の延長は法律を変える必要があるので、これから始まる国会での議論 になります。

◇公的資金枠は絵に描いた餅?  

国会で無事、法律が改正され、公的資金枠が3年間延長されたところで、それは あくまで枠でしかなく、どこかの会社が破綻したときにその公的資金枠を使おう と思ったら改めて国会の承認を取らないとその4000億円は使えません。その意味 で、この公的資金枠は絵に描いた餅で、実際には何の役にも立たないものでしょ う。千代田生命以降の破綻処理の際にはそんな絵に描いた餅に期待していても埒 があかないので契約者保護機構からの資金援助を使わずに破綻処理をしました。  

この4000億円の公的資金枠というのは、ちょうど3年前、1999年の年末に東邦 生命の破綻処理と絡めて民間生保の資金枠1000億円増額とセットで導入されたも のです。このときもいろいろ議論があったもののまだ多少の期待を込めて、公的 資金枠に実態があるかもしれない、ということでほとんどの生保がイヤイヤ賛成 したものです。  

その後、千代田生命や協栄生命の破綻処理で絵に書いた餅がそれ以上のもので はないことがはっきりしたので、今回もそんな絵に書いた餅のために民間生保の 資金枠を増額するなどという話は誰も賛成しないはずだったのですが、やはりお 役人の力は強力で、ニッセイを始めとするいくつかの会社の反対はあったものの、 契約者保護機構の採決ではお役人のシナリオが通ってしまったようです。

◇破綻処理時の精算金の行方  

この過程で、今までに破綻して契約者保護機構から資金援助を受けた会社が、 清算の過程で資金があまりそうなので、援助してもらった資金を一部返済する、 そのため生保各社の実質的な負担は1000億円の半分くらいだ、というような話が 出てきました。  

破綻処理にあたっては、破綻会社に対する債権者、既契約者、従業員、契約者 保護機構が負担を分け合ったのですが、そのトータルの負担額が最終的にすこし 少なくて済んだとき、それを契約者保護機構が回収する仕組みになっている、な どということは初めて知りました。  

それがはじめからわかっていたのならば既契約者の契約条件の切り下げももう すこし少なくて済んだかもしれない、とか、既契約を買い取った会社がそのあま りは既契約のものだから引き受け会社に返すべきだ、とかいう議論はないのでし ょうか。清算金の分捕り合戦が始まったら議論がさらに混沌とするような気がし ます。

◇既契約の予定利率の引き下げ報道の仕方  

この話と相前後して、既契約の予定利率の引き下げの話がまたもや出てきてい ます。しかも、既契約の予定利率の引き下げの際、解約停止期間を設けるだとか 早期解約控除を導入するとか、既契約の予定利率の引き下げがあたかも破綻処理 とほとんど変わりがないと印象付けた以下のような報道の仕方です。  

ここで、契約者から見た破綻処理と予定利率の引き下げの違いを整理しておき ましょう。

◆破綻処理では、  
  責任準備金が削減される。  
  予定利率が引き下げられる。 (ついでに予定事業費率、予定死亡率も変更される。)  
  早期解約控除が適用される。  
  これらが決まるまで、解約が停止される。  

これに対して、

◆予定利率の引き下げでは、
  責任準備金が削減されない。  
  予定利率が引き下げられる。 (ついでに予定事業費率、予定死亡率も多分変更される。)  
  早期解約控除が適用されない。  
  解約は停止されない。
というのが本来的なあるべき姿です。  

これは、契約の転換と比べると、
◆転換は  
  責任準備金が削減されない。  
  予定利率が引き下げられる。 (ついでに予定事業費率、予定死亡率も変更される。)  
  早期解約控除が適用されない。  
  解約は停止されない。
ということで、ほとんど同じです。  

契約の転換は契約者がセールスマンから『保険料が安くなりました』と言われ てその気になってするものです。保険料が安くなって、ちょっと得したような気 がする契約の転換と比べて、それとほとんど同じ予定利率の引き下げが非常な抵 抗を受けるのは、上記のような本来あるべき形の予定利率の引き下げでなく、破 綻処理に近い形での予定利率の引き下げが考えられているからではないでしょう か。  

ちなみに、
◆昨年の11月の終わりに日経新聞が書いた予定利率の引き下げは  
  責任準備金が削減されない。  
  予定利率が引き下げられる。 (ついでに予定事業費率、予定死亡率も多分変更される。)  
  早期解約控除が適用される。  
  これらが決まるまで、解約が停止される。
と、破綻処理の扱いと非常に似ています。  

責任準備金の削減のところが違っていますが、早期解約控除を入れるのであれ ば、それをうまく工夫することによって責任準備金が削減されようとされまいと、 同じような効果を出すことができます。

◇破綻処理とあるべき予定利率引下げは別物  

破綻処理が必要な会社は破綻処理をしなければならないので、それを予定利率 の引き下げて対処しようというのは全ての負担を契約者に押し付けるやり方で、 しかもそれによって破綻処理が回避できる、というものでもありません。  

予定利率の引き下げは、上に書いたようなあるべき姿の予定利率の引き下げに 限定して、それでは間に合わないような会社ははっきりと破綻処理をする、とい うことにすることによって予定利率の引き下げは破綻処理とは全く別のものだと いうことがわかるのではないでしょうか。  

例えば、ニッセイが率先してこの予定利率の引き下げを行えば(引き下げた分 は利差配当で還元することにすれば契約者にとってほとんど損にはならないこと になります)、予定利率の引き下げに対する拒否反応もかなり抑えることができ るのではないでしょうか。ニッセイが口火を切ればほとんどの(実質的に破綻し ていない)漢字生保がそれに追随し、(実質債務超過で)それができないところ は破綻処理に移行する、ということにすれば事態は一気に解決に向かい始める、 と思うのですが、なかなかそんな話にはなりそうもありません。  これから5月の連休の辺りまで、また気の重い日々が続くのでしょうか。         

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.linkclub.or.jp/~lax