【Inswatch】121 <11/25/2002>

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【2】代理店のための生命保険入門(21)            坂本 嘉輝

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代理店から見た予定利率引下げと生保破綻の問題  

生保の上半期の業績報告である中間報告が各社から発表され、急に生保破綻の 問題がクローズアップされてきました。今回は代理店ビジネスの実況中継をちょ っとお休みして、既契約の予定利率引下げ問題と生保破綻の問題について(代理 店の視点を交えながら)考えてみたいと思います。  

今週(これを書いているのは12月12日です)の週刊誌各誌は軒並み生保危 機の話題ばかりです。また、11月の終わりに金融庁が予定利率引下げの方向で 法改正をする、というリーク記事が日経新聞に出てから、こちらの問題も賛否各 論が出ています。中間報告の記者発表の席上では元大手の生保各社は口をそろえ て自分のところの会社は予定利率を引き下げない、と言っています。お役人は例 によって、新聞記事を否定するばかりです。

◇契約者保護機構の資金の問題  

また、契約者保護機構の資金の問題について、見せ金(贋金じゃありません) の公的資金枠4,000億円が来年の3月末でなくなってしまうので、その後の資金 手当てをどうするか、またもやわけのわからない議論が続いているようです。  

今の公的資金枠を入れたときは東邦生命の破綻処理を最終的にどうするか、決 めなければならなかったときで、生保業界側としてはその処理策に対する金融監 督庁(この当時はこういう名前でした)の認可が、ある意味で人質に取られてい たという状況でした。そのときのお役人の議論は、公的資金枠が期限切れになる 来年の3月末までには全ての生保が健全化を完了しているはずで、それができな いところはそれまでに破綻しているはずだという説明だったのですが、今となっ ては3月末に向けて全ての生保が健全化している、などというのは夢みたいな話 です。  

3月末までに健全化できない会社をすべて破綻させてしまう、などと言ったら それこそ大変なことになります。一度に元大手の生保会社を2つも3つもつぶし たらそれこそ銀行をはじめとする金融業界が大変な打撃を受けることになります。 外資の方は早々と契約者保護機構に対する追加拠出を拒否していますし、元大手 各社ももはや負担能力がないことを明確に主張しています。  

銀行の問題と違って(実は密接な関係にあるのですが)生保の問題については 金融担当大臣の竹中さんもあまり発言しないし、総理大臣の小泉さんは影も形も 見えない、という有り様です。

◇予定利率引き下げ問題とコンプライアンス  

予定利率の引き下げ問題に関しては、それをしようとした途端に解約が殺到す るかもしれないので、解約停止期間を設けるとか早期解約控除を導入するとか、 わざと混乱させようとするかのような議論がされているようです。単に予定利率 を(将来に向かって)引き下げるだけであれば、すぐには解約返戻金が下がるわ けでもないし、急いで解約しなければならない、ということにはなりません。こ れが、解約停止期間を設けるとか早期解約控除を入れるとか言うのであれば大変 です。急いで解約しなければならない、ということになります。  

代理店としてはできるだけ正確な情報を顧客に伝えなければならないのですが、 正確な情報がどこに行けば手に入るのかもわからないし(お役人はウソありの世 界ですし、苦しい生保も苦し紛れに正確な情報は絶対に出しませんし)、もし手 に入ったとしてもそれを顧客に伝えようとした途端、コンプライアンスに引っ掛 って代理店資格自体が危うくなってしまう危険がある、という状況です。  

コンンプライアンスに引っ掛って代理店を廃業させられる場合、昔は1つの保 険会社についてだけの業廃でよかったのが、最近では全ての保険会社について業 廃しなければならない、すなわち、その代理店が持っている全ての保険会社の既 契約に関する将来の手数料収入を失ってしまう、ということです。  

生命保険がほぼ全国民に普及しているので、保険に入っていない人はいない、 保険のアドバイスはまず既に入っている保険の整理から(乗り換え、ではありま せん)、というのが当社のスタンスですが、お客様の既契約の中に破綻しそうな 会社の貯蓄性の高い契約が入っていたらどのようにアドバイスするか、そのよう な会社の営業職員に現に保険を勧められているお客様にどのようにアドバイスす るか、代理店業務は落とし穴だらけの道を歩くようなものです。  

私の会社のスタンスは、コンプライアンスは消費者保護のためのものだ、と考 えていますので、一般にコンプライアンス違反だといわれるようなことでも、そ れをしないことがお客様の不利益につながるようなことであったら、お客様第一 に考えて、かまわず正しい情報を伝えよう、と考えているのですが、こんなこと を知ったら各保険会社の当社を担当している社員は冷や汗をかくかもしれません。 (当然、当社がコンプライアンスに引っ掛ったときは、ペナルティはそのような 社員にも、その上司の支社長にも行くでしょうから)         

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役)