【Inswatch】85 <3/18/2002>

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【6】代理店のための生命保険入門(12)            坂本 嘉輝

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

契約者配当の下限引き下げ−保険業法施行規則改正に異議あり  

いよいよ朝日生命の最終処理は4月以降になったようで、最近とんと話題にな らなくなりました。  

その間、毎日のように新聞紙上をにぎわしているのは、大型の企業倒産や、銀 行による、企業に対する多額の債務免除のニュースです。いわゆる金融の3月危 機はすぐそこに迫ってきているようです。(お役人は今だに危ない銀行はないと か、危ない生保はないなどと見え透いた嘘をつき続けていますが)  

さて、朝日生命が生き残りをかけた東京海上あんしん生命への営業部門の譲渡 がほぼ駄目になろうとしていた1月末に、金融審議会金融分科会第二部会が開か れました。その様子は<inswatch 2月11日号 Vol 80で[3]保険業界を斬る-1> として高橋伸子さんが報告しています。詳しくはわからないのですが、喫緊のテ ーマである朝日生命問題が話し合われた様子はありません。

◇2月5日の業法施行規則一部改正の唐突さ  

その金融審議会で、昨年の中間報告とそれに対するパブリックオピニオンを受 けて、「検討状況」というレポートが事務局であるお役人から提出されました。 これがお役人からの現状報告なんだなと思っていた所、いきなり2月5日付で「保 険業法施行規則の一部改正」の内容が発表され、2月19日までの期限でパブリッ クオピニオンが求められました。この施行規則の一部改正は主に相互会社の社員 配当(契約者配当)の最低水準を現行の、利益の80%から利益の20%に引き下げる というものです。  

この引下げは前の中間報告にもあったものですが、これに対するパブリックオ ピニオンは賛否両方あったものの、賛成意見もあくまで条件付賛成というもので 無条件賛成というものではありませんでした。  

それを今回施行規則を改正し、無条件で社員配当の下限を20%に引き下げよう としています。このあたりの経緯、それからこの施行規則の改正に対する私の反 対意見については http://cgi.linkclub.or.jp/~lax/bbs/wforum.cgi?mode=all_read&no=523&page= 0 を見てみて下さい。

◇無条件で下限20%引き下げの根拠のあいまいさ  

生命保険会社が決算で利益が出せないのであれば、80%であろうと20%であろ うと社員配当はできないわけですし、利益が出ているのであれば配当を80%出し たところでまだ内部留保にまわせる利益が残ります。配当より内部留保を優先し たいのであれば責任準備金を積み増すにしても基金を増額するにしてもいくらで もやりようはあります。  

責任準備金の積み増しはその分、利益が減るので社員配当より先に利益を先取 りしてしまうことになります。基金の増額についてはその分の基金の償却に当て られる額はあらかじめ利益から控除した額を基準に配当の80%の下限が計算され ます。いずれにしても今の80%のルールの中で何の問題もなく内部留保の充実を 優先させることができるわけです。

どうしても社員配当を利益の80%より下げなければならない場合には、今の法 律のままでも、定款を変更して大臣の認可を得れば80%より低い社員配当をする こともできます。今何も慌てて施行規則を変える必要はありません。  

相互会社が社員配当をしないとなったら(利益の20%などというのは配当しな いのと同じことです)、相互会社の有配当契約という理念が根底から覆ってしま うことになります。  しかも、配当しないで留保された利益が配当以外の何にどう使われるか、それ に関する規定や規制、ルールなど何もない状況です。

◇小手先の法改正  

3月12日付の日経金融新聞の1ページ目に、『小手先の生保規制改革』というタ イトルの記事が載っています。この中でこの配当の下限を80%から20%に引き下 げる改正について、『制度改正後も配当を減らす生保は出てこないのではないか』 というコメントが載っています。中間報告の中の既契約の予定利率の引き下げ問 題に関して、『その法改正をしてもそれを使う会社は出てこないから、実際に使 われない法律をわざわざ作る必要はない』としてその制度化を見送った、その舌 の根も乾かないうちに、このような法改正をしようというのはなんともおかしな 話です。  

高橋伸子さんも金融審議会の議論の仕方についてたいそう憤慨してレポートし てくれています。合わせて読んでみてください。                        

(生命保険アクチュアリー)