【Inswatch】63 <10/15/2001>

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【8】代理店のための生命保険入門(7)            坂本 嘉輝

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<その7>消費者から見た生命保険のコスト  

前回の記事を書いた直後のニューヨーク、ワシントンのアタックは、今朝のニュ ースではいよいよ戦争が始まってしまいました。これで政府も、公的資金を使っ てでも保険会社の破綻を防ぐ、という方向に決心してくれると良いのですが、ど うなるでしょうか。

◇消費者サイドのアプローチ  

前回まで何回かにわたり、確率論というか、賭け、くじ引きの話をしました。  

お気づきと思いますが、確率とか期待値などという言葉をできるだけ使わない ようにしました。  

生命保険の場合、大数の法則とか期待値とかの言葉を使ってその仕組みを説明 することがあります。皆さんも今まで何回も、このような言葉で保険を顧客に説 明してきたことと思います。しかし、これらの説明というのはあくまで保険会社 側からの見方で、契約者あるいは被保険者の側からの見方ではない、ということ は今まであまり注目されてこなかったように思います。

◇死亡率1%とは  

死亡率が1%ということは保険会社から見て、契約が1万件あったら、そのうち 約100件の死亡がありそうだということです。あるいは10年ないし20年を通して みると,毎年の死亡数の合計は毎年の保有件数の合計の約1%位になりそうだ、 ということです。  

個々の契約者、あるいは被保険者にとって、自分が1万人いたらそのうち約 100人の自分が死亡するとか、人生を100回繰り返したらそのうちの1回くらいで、 1年で死亡するとかいうのは意味を持ちません。また、1年たったら自分の100 分の1が死亡して、100分の99だけ生きているというわけでもありません。生きて いる時は100%生きているわけだし、死んでしまったら100%死んでしまっている わけですから。  

確率とか期待値とかいう考え方、また大数の法則というものは、同じ(と思わ れる)ことを何回も何回も繰返し、その全体の平均での議論です。個々人の生死 というのは1回限りのもので、何回も繰返しできることではありません。  

保険会社では、被保険者を適当に、大勢集めてくればそのうち、1年間に死亡す るのは1%だ、などということを言えるようになります。しかし、保険会社であ っても、特定の個人に対して、あなたがこれから1年間のうちに死亡する確率は1 %だ、などと言うことはできません。勿論、**歳の人の平均死亡率は**%だ、と いうのは参考になりますが、本人にとっても、自分が1年以内に死亡するかどう かなどわかりません。

◇死亡リスクのコスト  

保険会社にとって死亡リスクのコストは保険金額に死亡率をかけたものにほぼ 等しくなりますが、個々人にとってはそのコストがどの程度になるか、保険金額 に死亡率をかけたものに等しくはなりません。  

保険会社から見た場合、生命保険のコストは、支払う保険金額の総額ですが、 それは大数の法則によって保険金額に死亡率をかけたものに大体等しくなります。 これに若干の上乗せをしたものが保険料になります。このようにして、保険のコ ストとそれを保障するための保険料収入がつりあうようになっているわけです。

◇契約者から見た保険のコスト  

契約者の側から見た場合、生命保険のコストは支払う保険料です。それを支払 うことによってえられるものは、受け取る保険金です。死亡した場合、そのコス トはどれくらいになるかわかりませんが、その場合に保険金を受け取ることがで きて、その保険金により死亡のコストがどれだけ軽減できるか、というのが生命 保険に加入する場合のメリットになります。そして、保険料(というコスト)は ほぼ確実に支払うことになりますが、死亡保険金は死亡したときだけ受け取るこ とになる、ということから評価はさらに難しくなります。  

自分がどれくらいの確率で死亡しそうか、主観的に(すなわち自分勝手に)判 断して、また、自分の死亡がどれだけのコスト(あるいは損失)になるかを主観 的に(自分勝手に)判断して、最終的に、死亡したときに受け取る保険金(によ るコスト軽減分)がどれだけの価値があるか、を主観的に(自分勝手に)判断し た上で、その受け取る保険金の価値が支払う保険料の価値より大きいと判断した ときに保険に入ろう、入っておいたほうが得だ、という判断が可能になる、とい うことだと思います。  このような観点で生命保険を考えていきたいと思っています。                        

(生命保険アクチュアリー)