【Inswatch】52 <7/30/2001>

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【3】生保決算と公表資料についての一視点           坂本 嘉輝

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生保独自の科目やルールを知る  生保会社の決算も終わり、株主総会、社員総代会も終わりました。

改めて各社 の決算をながめてみましたが、状況は相変わらず厳しいようです。日経平均もま たまたバブル後の最安値を更新し、参院選後のマーケットの動向が気がかりです。  

今まではどちらかと言えば保険会社の側にいて、その立場から決算資料を見て いたのですが、立場が変わって保険会社の外から決算資料を見ようとした時、改 めて生保の決算を理解するのは難しいことだなと感じます。  

私が各社の決算を見る時使うのは、6月の初めに発表される各社の決算のディ スクロージャー資料(日銀記者クラブで発表され、一般に「記者発表資料」と言 われるものです)と、株主総会、社員総代会終了後発表される「○○会社の現状」 という資料です。前者はA4約60頁にわたって詳細な数値が羅列してあり、後者は 約100頁位のものです。最近ではインターネットのホームページからこれらの資 料をダウンロードできる会社も増えてきました。  

「現状」が発表された後、東洋経済の生保特集号で決算の数値が各社横ならび で集計され、その後、インシュアランスの統計号で、より詳細な統計数値が掲載 されます。最後に生命保険協会でも統計数値を集計した資料が出版されますが、 これは協会加盟の生保会社には配布されるものの、非売品になっているので一般 の外部の人が入手できるかどうかわかりません。  

生保の決算資料には生保独特の科目や独特の会計ルールが多くあり,それをき ちんと理解しないとこの膨大な数値の意味を正しく理解することができません。 また、会社の財務状況を正しく把握しようと思ったら、少なくても3年から5年に わたって、損益計算書や貸借対照表を横並びにして、その数値の推移を見る必要 があるのですが、ここ数年は毎年のように会計基準が変わっていて、その横並び の比較をしっかりとすることも容易ではありません。  

たとえば、今年の決算では資産の時価評価が導入され、それに対する税効果会 計の適用もあり、前年との比較がむずかしくなっています。さらに退職給付債務 の取扱い、ソルベンシ―マージン比率の計算方式も変わっています。会社によっ て、新しい会計ルール採用の仕方もまちまちで、決算資料の表現の方法も必ずし も統一がとれているわけではありません。  

生保会社の経営破綻に際して「自己責任」と「ディスクロージャー」という言 葉がよく引き合いに出されます。即ち、破綻する会社の契約に入ったのは契約者 の自己責任だ、とか自己責任を問う前にもっとディスクロージャーを充実させ、 経営内容を公開して、契約者が自分で判断できるようにすべきだ、という議論で す。  

この議論はある意味でもっともなのですが、それと同時に既にかなり膨大な数 値がディスクローズされているにもかかわらず、殆ど理解も利用もされていない、 というのも事実です。(多分最も利用しているのは他の生保会社のアクチュア リー達だと思います)ディスクロージャーが充実すれば、それに基づいて消費者 が正しい判断をすることができる、という簡単な話ではありません。  

こういった事情のため、一般の消費者が利用する(できる)のはソルベンシ― マージン比率であったり、格付け会社の格付けであったりということになります。  

いくら何でも保険会社の経営をソルベンシ―マージン比率というたった一つの 数値で表現してしまうのは大きな問題ですし、その比率の計算方式自体、役所の おしきせで、その信頼性について様々な批判がされています。  格付け機関の格付けも、格付け自体は10〜20位の区分のどれかにそれぞれの会 社を区分けしてしまうというものですし、それに関する説明もほとんど公表され ません。(会社が格付け機関に依頼して格付けしてもらう場合には、格付け機関 はもう少し詳細なレポートを会社に提出して、その会社がどうしてこれこれの格 付けになったか、会社のどの部分をどのように評価したか、という説明をしてい ますが、残念ながらそれは一般には公表されません。)  

アメリカではA.M. Bestという会社(Best’s Reviewという業界誌を出してい る会社です)が、保険会社の格付けもしています。同時に「会社年鑑」とも言う べき資料も出版しています。(「Best’s Insurance Reports」というA4サイズ の2段組、TU巻合わせて約4,000頁、約9万円の本です。)そこには各保険会社 別にその沿革から事業の概要、決算の数値、各種経営指標、その解説まで載って います。こんな本が日本にもあれば(消費者個人がこの本を参照することはない にしても)代理店や仲立人などが参照して、各保険会社の状況を把握し、それを 顧客に説明することができるかもしれません。  

私の会社にも2000年版のものがありますので、どんな中味なのか見てみたい方 はご連絡ください。(ただし、当然ながら全部英語です。)                          

(アカラック(株)代表)