【Inswatch】42 <5/21/2001>

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【8】代理店のための生命保険入門               坂本 嘉輝

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<その2>消費者の使える道具立ての貧困

◇保険会社から消費者に視点を移そうとすると

前回も書きましたが、私は通算23年、生命保険会社で仕事をし、その後1年、再 保険の仕事をしたわけで、つまり生命保険を生命保険会社の立場から見続けて来 たわけです。 今立場を替え、生命保険サービスの利用者、消費者の立場から生命保険を見直し て見ようとしたとき、アクチュアリーとして使える道具がほとんど何もないこと に改めて驚かされます。

◇保険会社の道具立ては揃っているが

このところ生命保険に関してマスコミで頻繁に取りざたされている、逆ざや、ソ ルベンシ―マージン比率、利差損、死差益、費差益、予定利率の引き下げ等々全 て保険会社の立場から見た保険会社の経営のための道具です。これ以外でも商品 の収益性をチェックするプロフィットテストとか死亡率、継続率、事業費率のチ ェックとか、事業費分析、あるいはEmbedded Value (潜在価値会計、あるいは 付加価値会計)、アメリカ流のUS GAAP会計による収益の測定、等々保険会社の 立場から見る分にはいくらでも道具立ては揃っています。 私もイッパシのアクチュアリーとしてこのようなテーマであれば、いくらでも話 ができます。その一方、ウチのオクサンに「知り合いで外務員をやっている人か らこの保険に入らないかって薦められているんだけど、どうしたら良いかしら。 保険の専門家なんだから、資料(パンフレットとか設計書とかです)を見てどう するか決めてちょうだい!」と言われるとハタと立ち往生してしまうような状況 です。

◇消費者の立場からの生命保険サービス

生命保険サービスを生命保険会社がビジネスとして消費者に提供するのは、それ によって利益を得ることが期待できるからです。消費者がそのサービスを購入す るために生命保険に入るのは、それによって経済的利益(保険に入らないより、 入っておいた方が良いという程度のものです)が期待できるからです。このよう なWin-Winの関係、保険会社も消費者も、中を取りもつ代理店の皆さんもみんな ハッピーの関係がどのようにして可能なのか、その中で消費者の立場から様々な 生命保険サービスをどのように理解し、判断し、各々の状況に最も適した保険サ ービスをどのように選択していったら良いか考えてみたいと思います。 消費者が保険料や解約返戻金を気にするのは当然ですが、上に列挙した予定利率 だとか、利差損だとか、そんなものまでいちいち気にしなければならないという のはやはりちょっとおかしいのではないでしょうか。我々はソニーの経営指標を チェックしてソニー製品を買うわけでもなく、トヨタの財務状況をチェックして トヨタの車を買うわけでもないのですから。 今まで保険会社の立場での活用しかほとんどされて来なかったアクチュアリー的 な手法が、消費者の立場からどのように活用できるか、そのためにどんな工夫、 どんな方向からのアプローチが可能なのか、考えてみたいと思っています。 幸い月1回のペースでこのinswatch誌上に一定のスペースを使わせてもらってい ます。これを利用させてもらいながらじっくり検討を進めていきたいと思います 。 次回以降しばらくお付き合い下さい。(うまくいったらおなぐさみ)                        

(生命保険アクチュアリー)