2013年 6月 24日  inswatch Vol. 673

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保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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統計の使い方

今月は、ちょっと保険とは離れますが、統計の使い方について話をしましょう。

生活保護世帯の増加と物価水準の下落(デフレ)を反映して、生活保護の水準を引き下げよう、という話があります。このための指標として、『生活扶助相当CPI』という指標が計算され、一般の消費者物価指数が平成20年平均から平成23年平均に向かって2.4%下がったのに対して生活扶助の対象となる物価は同じ期間に4.8%下がっているので、この4.8%の下げを基準に生活保護の水準を切り下げよう、という厚生労働省の考え方に対して、野党の福島みずほさんとか長妻昭さんが、その計算はおかしい、と文句をつけて、ちょっと話題になっているよ うです。

消費者物価指数というのは、消費者が消費する様々な品物やサービスについて個々に物価を調査し、そのそれぞれの品物やサービスの消費量のウエイトを付けて加重平均すると全体的な物価水準が計算できる、という仕組みになっています。     5年ごと(2005年(平成17年)とか2010年(平成22年)とか)にその計算に使うウエイトを見直し、またその年の指数を100として以後の年の指数を計算します。

この、ウェイトを見直し、また指数を100とおきなおす年を基準年と言います。

これで基準年からその5年後までは物価指数が計算できますが、5年たったところで新しく物価指数が100になってしまうのでは長期的な物価水準の推移がわからなくなってしまいます。そこで、この物価水準の推移が連続して判断できるように、基準年の5年後の指数を100に置き換えるのと同じ比率で基準年から5年分の指数を変換して、指数が連続するようにしています。

で、先に書いた平成20年から平成23年に向かっての2.4%のデフレ、というの は、基準年の平成22年を100とする置き換えで平成20年の指数が102.1になるのに対して平成23年の指数が平成22年を100として99.7となり、99.7÷102.1で2.4%のデフレ、となるわけです。

で、これを生活扶助相当CPIの計算に応用するのですが、教育扶助とか住宅扶助とか、あるいは生活保護世帯では認められていない消費については計算から除外することにして、それ以外の消費項目について、消費者物価指数の計算と同じ指数を使い、同じウエイトを使って加重平均する、という計算をしています。

で、この計算方法に対して、生活保護世帯に対して一般と同じウエイトを使うのはおかしい、とか、生活保護世帯はそんなに高額の消費はできないので個々の品目について一般と同じ指数を使うのはおかしいとかの反論がなされているわけです。それに対して厚生省の方は、そんな事を言ったってそんなおあつらえ向きの統計はないんだから仕方がないんだ、という返答をしています。

この議論は確かにその通りなのですが、それ以外にも基本的なところで厚生省のやり方には問題がありそうです。それは個々の品目の加重平均を計算するのに、平成22年基準のウエイトをそのまま使って平成20年と平成23年の生活扶助相当CPIを計算し、比較している、というところです。

本来であれば、平成20年から平成22年までは平成17年基準のウエイトを使って計算し、平成22年から平成23年までは平成22年基準のウエイトを使って計算し、その結果を接続する、というやり方が正しいやり方です。

で、このやり方で計算してみると、なんと、生活扶助相当CPIのデフレ率も一般の消費者物価指数のデフレ率と同じ、2.4%のデフレ、と計算されました。

また逆に、今回の厚生省方式で全体の消費者物価指数のデフレ率を計算すると、本来の2.4%のデフレが3.9%のデフレになってしまいます。

『統計でウソをつく法』なんて本もありますが、厚生省もわざと間違えた計算をしようとした、というより、たまたま計算してみたらおあつらえ向きの大きなデフレ率が出たのでそれに飛びついてしまった、ということなのかもしれません。

生活保護世帯が急増して、予算を節約するためにできるだけ大きなデフレ率がほしかったんでしょうね。

アクチュアリーというのも統計の専門家、ということになっています。統計データの取り扱いというのはちょっと使い方を間違えると簡単にとんでもないことになってしまいます。自ら省みて、ヒヤヒヤものです。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp