2013年 5月 27日  inswatch Vol. 669

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保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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アンジェリーナ・ジョリーのケース

世界的な人気俳優のアンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットの夫婦というかカップルの、アンジェリーナの方の乳腺切除のニュースで大騒ぎですね。

乳ガンが発症しやすい遺伝子の変異を検査でみつけて、発症する前に予防的に乳腺を取ってしまうという手術をしたということですが、「美人女優が乳房切除」という見出しを見るとびっくりしてしまいます。

遺伝子の検査も手軽になったもので、その昔、ヒトのゲノム(遺伝子の全体のことをゲノムといいます)を完全に解読するのに、世界中の学者を集めたプロジェクトで10数年かかってようやくできたのがついこの間のような気がします。今では何十万円かで1日かせいぜい2〜3日で、自分のゲノムの解読ができてしまうようです。

バイオ技術とIT技術の進歩はすさまじいものですね。ゲノムの解読というのは、ゲノムを細切れにしておいてそれを大量にコピーして、その小さい部分を一つ一つ解読しそれを今度はつなぎ合わせて全体像にする・・という方法を取るんですが、細切れにするとか大量にコピーするとか、小さい部分を解読するのはバイオの技術で、そのコマ切れを集めて全体につなぎ合わせるのはITの仕事のようです。

その結果は、記号で印刷すると大部の本になるというんですから大変です。

で、このアンジェリーナ・ジョリーのケースでは、遺伝子検査の結果から、乳ガンの発症率が87%、卵巣ガンの発症率が50%と診断されたということですが、どこまで信頼できる数字なんでしょうね。ある遺伝子がある病気と関連しているというのは証明することができるかも知れませんが、ある遺伝子の変異により病気になる確率が何%なんてことは、そう簡単に計算できるものじゃありません。

お医者さんの言うことをそのまま信じて何百万円もの手術をしたというのも、お金持ちだからできたんでしょうか。今後お金持の証明みたいにこの手術がはやってしまったら大変ですね。

将来的に日本で健康保険が適用される位に一般的になるならともかく、当面は遺伝子検査で危ないとなったらこまめに検査して、早期に発見して対処するという方が安心だし安上がりのような気がします。

それより、検査を受ける前に保険に入って、検査を受けてその遺伝子の変異があったら手術代を保険会社が負担する、なんていう保険を作ったら売れるでしょうか。保険会社としたら、保険料を計算するのが難しそうですね。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp