2013年 4月 29日  inswatch Vol. 665

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保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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「異次元」の政策の持つ意味

4月に入り、いよいよ新年度です。   
保険会社各社では今頃決算の最終まとめで忙しいのかも知れません。

決算がまとまって発表されるのはもう少し先なので、とりあえず今回は日銀総 裁の交代の話です。

黒田さんが白川さんに代って日銀総裁になり「異次元」の政策をするというの で、一体何をするのかと思っていたら、何のことはない「マーケットにお金を増やす」ということでは、今までと全く変わりません。

ただしその規模を2倍にするということで「異次元」と大騒ぎされていること になります。たかが2倍ですが、実際に数字を確認するとなるほど・・と思います。

まず黒田さんの「異次元」は市中のマネーを年に60〜70兆円、2年で130兆円増やすということです。このためにいろんな買物をするんですが、やはり中心となるのは国債です。

で、その国債はどれくらい出回っているのかというと、約700兆円(平成25年3月見込)というのが発行残高です。その内訳は(平成24年3月末で)370兆円は残存期間が5年以下のもので、5年超は301兆円、10年超になると138兆円です。

従来の日銀の国債買い入れはどちらかというと短期の国債を中心にしたものだったのが、今回の黒田さんは「中長期債を中心に」と言っているので、この残高が少ない方を中心に買取ろうとしているということです。

さて、生保会社は長期投資で国債をたくさん持っているのですが、平成24年3月末で全社合計で141兆円の保有となっています。残存期間別に見るのは各社それぞれなので、代表として日本生命とあんしん生命を見てみると、10年超の占率が日生でもあんしん生命でも77%、5年超まで広げると88%になっています。

すなわち生保の国債保有は長期のものがほとんどで、その生保の持っているのが発行残高の大半を占めていて、黒田さんが買取ろうとしている額と同じ位の額しか発行残高がないということです。

こう見ると確かに大騒ぎもうなずけます。黒田さんが買ってくれるから国債は値上がりしますから、売却すれば売却益が稼げますが、稼いだところで国債の代わりに受取った現金を何かで運用しなければなりません。高く売った国債をさらに高い値段で買い戻すんだったら、何をやっているんだかわからないことになります。手持ちの国債を売却しないとしても、この勢いで日銀に買い占められると、これから入ってくる保険料に対して責任準備金を積み増すための資産運用をするために国債を買い増す、というのはかなり難しい話になります。

となれば外国の国債でも買うしかありませんが、ギリシャやスペイン・イタリアの国債を買うわけにもいかないでしょう。アメリカやドイツ位しか選択肢はなさそうですが、アメリカはアメリカでEUはEUで、まだまだいろんな問題を抱えたままですから、いつ国債が値下がりするかわかりません。また為替リスクも考えなければいけないということになります。

いろいろ考えれば考えるほど、「たかが2倍」ではありますが、確かにこれは「異次元」と言えるほど、特に生保の経営に重大な影響を与えるような大事件です。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp