2012年 9月 24日  inswatch Vol. 634

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保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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遺伝子の検査と生命保険

大腸ガンになりやすいかどうか、遺伝子の特徴を調べて数値化し、これを健康診断に取り入れて予防につなげるという研究成果がガンの学会で発表されたようです。

いよいよこんな時代になりました。まだ学会発表の段階ですから、本当に使えるかどうか検証はこれからということになるのでしょうが、いずれにしても時間の問題で、個人の遺伝子を調べて病気になりやすさを検査することができるようになるようです。

健康診断に取り入れるという位ですから、かなり安価にできるということでしょう。ポイントは少量の検体(血液その他)で遺伝子を迅速に調べる、ということですが、コンピュータの進歩とIC製造技術の進歩でそれが可能になった、ということなんでしょうね。

こうなった段階で生命保険会社はどうしたら良いかというのは、頭の痛い問題です。

従来の考え方からすれば、保険会社としては、少なくとも高額の契約の申込に対してはこの検査を行ない、ガンになりやすい人は謝絶するなり条件を付けて保険料を高くするなりしたいと思うのでしょう。

一方加入申込者の方はあらかじめこの検査をして、ガンになりやすいとなった時だけ保険に入ろうとするかも知れません。

申込者の方だけ検査結果を知っていて入るかどうか決める、というのは、いわゆる『逆選択』ということになります。一方で保険会社の方だけ検査結果を知っているというのは選択の問題ではありますが、本人も知らないことを保険会社だけが知っていて条件を付けるというのは、何となく不公平という気もします。

これがいくつものガンについて簡単に安価に検査ができるようになったとき、保険会社の方はどれか一つでもガンになりやすいという検査結果が出たとき、謝絶なり保険料を高くするなりするというのは良いとして、その理由を申込者に知らせるべきなんでしょうか。

今までの保険会社のスタンスは、保険会社がやった検査結果の中味は必ずしも申込者には知らせないということですが、結果を知らせて、その結果申込者が気をつけて予防するということであれば、保険会社にとっては却って良いことなのかも知れません。

しかしその代わり、検査でガンになりやすいとわかっても、その分気をつけるから結果的にはガンで死亡することが少なくなったとしたら、その人に対して『保険料を高くする』という根拠がなくなってしまいます。

お医者さんとしては検査が予防につながればそれで良いのでしょうが、保険会社の方はそれを査定に使うのか使わないのか、使えるのか使えないのか、使うべきなのか使うべきでないのか、なかなか悩ましい時代になります。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp