2012年 8月 27日  inswatch Vol. 630

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保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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平成24年度の経済動向について

「平成24年度の経済動向について」という政府の経済見通しが発表されました。 GDPの伸びが年率2%というまあそれなりのものではあるんですが、その中で平成25年度の「参考試算」として、名目GDPの伸び率が実質GDPの伸び率を上回るという数字を出しており、ちょっと話題になっています。名目の方が実質より上ということは「インフレ」ということで、これは何と16年ぶり、あるいは20年ぶりのことだということです。

もっともこれは政府の発表で、もしかするといろいろ政治的な配慮があるのかも知れません。今の所民間のシンクタンク等の見通しではまだデフレは続くようです。

インフレの時、名目のGDPの伸び率はインフレによる物価の上昇分だけ膨らんで計算されるので、それを調整するため、デフレーターという、物価の上昇分を示す指数で割り戻して実質値を計算します。

そのためこのデフレーターの大きさが、インフレの度合いの指標になります。 で、このデフレーターがデフレのためここの所ずっと下がり続けていたのが、今回の政府経済見通しでようやく上昇に転じることになるかも知れない、ということです。 16年ぶりあるいは20年ぶりと書いたのは、1997年に消費税が上がった時に、その影響でデフレーターが上がったことがあるけれど、これを除くと1993年以来20年ぶりということになるようです。

すなわち失われた10年あるいは20年が、ようやく終わりに近づいているということなのかも知れません。

私が以前働いていたINGでは1991年頃から全世界のINGの事業体でEV(エンベッデッドバリュー)の計算を始めていましたが、その計算の前提となる計算の仮定として、資産運用利回りとか国債利回りとかインフレ率とかの将来見通しを各国別に決めていました。

日本についてのこのような指標の見通しを聞かれて、インフレ率について0%と回答した所、オランダ本社のスタッフからは何を馬鹿なことを、と取りあってもらえなかったことを思い出します。

皆、戦後のインフレの記憶から、ゼロ金利とかデフレとかはあり得ないと思っていたんでしょうね。

インフレ率が0ということは、経費率が上昇しないということなのでEVは大き目になるのですが、一方、これは金利と連動すると考えていますから、インフレ率0に対して金利もゼロ金利が続くとするとこれは利差益が稼げないことになるので、EVが小さくなってしまうということになります。EVも経営の指標で、大き い方が会社として見栄えが良いので、彼らとしては大きくしたかったんでしょうね。

これから始まるヨーロッパの失われる10年・20年で、彼等もたっぷり思い知ることになるのでしょうが、その立場にならないとわからないんでしょうね。

と同時に、日本ではデフレがもう20年も続いているということは、その間社会 に出た人達はインフレを実体験として知らないということになりますから、いよいよ本格的にインフレになったらどうしたら良いかわからないということですね。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉がありますが、最近のクルーグマン教授の発言などを見ていると、ノーベル賞を取ったほどの大学者でも歴史に学ばない愚者の仲間ですから、インフレを知らない人にとっては昔の人の経験も何の役にも立たずに、彼らが実際にインフレを経験するまでまた右往左往するんでしょうね。

様々な問題を解決するため「穏やかなインフレ」というのが一番有難いのですが、このままデフレが続くのも急激なインフレになるのも、どちらも困ったこと になってしまいます。

来年の今頃は実際、インフレになっているんでしょうか。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp