2012年 7月 30日  inswatch Vol. 626

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保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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公的年金加入者等の所得

7月9日に厚労省から「公的年金加入者等の所得に関する実態調査結果の概要について」というレポートが発表されています。

これについてマスコミ各社はいろいろ報道しているのですが、目につくところ でNHKのサイトでは「国民年金半数超 年収100万円下回る」というタイトルで、 日経では「国民年金加入者、平均年収159万円受給者下回る」というタイトルで、全体的な印象として、「年金があぶない、頼りにならない」という雰囲気を かもし出す報道になっています。

この調査は全国から6万3千世帯を選び出して、そのうち5万8千世帯の12万4千人のうち7万2千人についての集計だ、ということで、まあ、ざっと言って1,000 人に1人くらいの抽出率のサンプリング調査です。これだけの数の調査ですから、 統計的には1,000人に1人であっても十分信頼性の高い調査です。

で、NHKは「国民年金の加入者の半分が年収100万円未満だ」ということに注目しているようです。ここで『国民年金の加入者』と言っているのは1号被保険者のことを意味しているようです。

国民年金法では1号も2号も3号も皆被保険者なのですが(そのためこの1号・2 号・3号というのは国民年金法で定義されています)、世間一般ではこの1号被保 険者のみを国民年金の加入者と言っているようです。

もちろん厚労省のレポート自体はそんないい加減な言い方はしないで、きちん と「1号被保険者」と言っていますが、マスコミではNHKでも日経でも1号被保険者だけが「国民年金加入者」です。

で、この部分の人の半分が年収100万円以下ということですが、これは別にそんなに驚くような話でもありません。

一般に「3号被保険者」いわゆる「サラリーマンの妻」といわれている被保険者ですが、この人達は3号被保険者として1号には入っていないのですが、それ以 外のたとえば1号被保険者の妻の専業主婦、いわば「自営業者の妻」になる人は3号ではなく1号被保険者です。また同様な言い方で「サラリーマンの息子・娘」すなわち学生や、学校を卒業してもサラリーマンになっていないような人も1号 被保険者になります。もちろん「自営業者の息子・娘」も同じです。リストラ等でサラリーマンでなくなってしまった人も再就職できなければ1号被保険者にな り、その奥さんが3号だったとしたらその奥さんも1号になります。

このように基本的に「サラリーマンの妻」以外の収入がない人、あるいは収入のかなり少ない人は皆1号被保険者になるわけですから、1号被保険者の過半の人の収入が100万円以下であっても不思議なことではありません。

日経新聞の方の記事は、1号被保険者の年収と、老齢年金の受給者の年収を比べているんですが、それにどんな意味があるのか、全く不明です。特に、このレ ポートで老齢年金の受給者の年収と言っているのが、平成22年11月末現在で老齢 年金の受給者になっている人の、平成21年の収入、ということですから(この部 分、私の読んだ日経の記事には書いてありませんでした)、年金生活者になる前の高給取りのサラリーマン時代の年収が老齢年金の受給者の年収の中に混ざっている、ということになりますから、あまり比較にはなりそうもありません。

ということで、NHKの記事も日経の記事もかなり問題含みな内容なのですが、 それより面白いデータがこのレポートにはあります。それは(レポートの)9頁目の表5-2なんですが、ここに1号被保険者の就業形態別の構成割合が計算されています。

一般に1号被保険者を『自営業者』で代表させるのですが、実は1号被保険者のうち『自営業者』は14%(7分の1)しかいないということがこの表でわかり ます。

ではどんな人が1号被保険者なのかというと、『会社員・公務員』が25%、 『臨時・不定期(収入)』というのが23%、『非就業者』が28%で、どれも『自営業者』の倍くらい、あわせて全体の4分の3もいる、ということです(これら のほかは『家族従事者』という人で、10%ほどいます)。

これを見るとNHKの『自営業者などの国民年金』とか日経の『自営業者やフリ ーターなどが入る国民年金』という言い方自体がまずもって大間違いということ になります。

でも世間的には『国民年金=自営業者』という図式があまりにも定着し過ぎていて、訂正するのは骨が折れそうですね。困ったものです。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp