2012年 3月 26日 inswatch Vol. 608
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保険ウオッチング 坂本 嘉輝
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ライフネット生命の株式公開
3月も終わりです。ギリシャ危機もとりあえず3月は乗り切って、ギリシャ国債は正式にデフォルトになった(CDSの保険金は元本の8割ということで、エルピーダメモリーの社債のCDSと同じです)ものの、今の所マーケットはそれほど大きな影響がないようです。
それを受けて、為替は対ドル・対ユーロともひところに比べると大幅な円安で、輸出企業も金融機関もほっと一息ついているようです。
そんな中、AIJ投資顧問の年金預り資産が消えていたという話が持ち上がっています。いつもの、有利そうに見える運用に手を出して元も子もなくなっちゃった、という話です。
資産運用に「投信」という覆いをかぶせると、中味が良く見えなくなってしまいます。それを地球の反対側で何回かやってしまえば、外から見ただけじゃ何も見えなくなります。
怪しいなと疑う人がいたら、ちょっとおまけを付けてお金を返してあげれば、それ以上大騒ぎをする人はいません。そのためにもそのおまけを正当化するために、素晴らしい運用成績を公表しなくちゃなりません。おまけを付けてお金を返すことができなくなった時には金庫の中は空っぽになっている、というわけです。
こんな話は繰り返し出てくるので、いい加減もう騙される人がいなくなってもおかしくないんですが、相変わらず簡単に騙される人は多いようです。みんな、自分だけは大丈夫、と思っているんでしょうね。特に、自分が持ちつけない大き な額の資産運用をまかされると、人は騙されやすくなるようです。持ちつけないお金は持たないに限りますね。
ところで、ライフネット生命が東証マザーズという所に株式を公開して話題になっています。ライフネットはまだ当分は赤字決算が続く予定で、会社を続けるために増資が不可避という状況なのに株式を公開して、その株式を買う人がいる、というのも面白いですね。
ライフネットの資料によると、2011年9月時点で資本金+資本準備金が132億円に対して、エンベッデッドバリューが100億円です。エンベッデッドバリューというのは将来の利益も取り込んだ評価で、現時点での純資産は繰延資産を除けば55億円しかありません。これに対して新しく株を834万株・株価1,000円で公募増資して公開したわけです。
資本金(+資本準備金)は83億円増えて、215億円。エンベッデッドバリューも83億円増えて183億円。これに対して株式は3,372万株が834万株増えて、4,208万株。
1株1,000円として、時価総額は420億円になります。公開時の株価は930円だったようですが、先週末(3月23日)の株価は1,261円まで上がっています。これで計算すると、時価総額は530億円になります。純資産だと138億円、エンベッデッドバリューだと183億円の価値のものを株式で530億円もの値段をつけて、元が取れるんでしょうか。
2011年12月末の113条の繰越差引後の55億円は、2011年3月末の113条の繰延差引後の純資産71億円と比べると、9ヵ月で16億円も減ってしまっています。このペースで1年で20億円くらいずつ減るとすると、そろそろ資本金を増やしておかないと純資産が足りなくなっちゃう、という現状がわかります。
またこれまでのライフネットに対する出資も、ほとんどが2007年5月から2008年3月にかけて行なわれていて、そろそろ5年になります。普通の投資家は早ければ2〜3年、遅くとも5年位で利益を確定させたいと思っているようですから、その面でも株式公開は必要なんでしょうね。
また、ライフネットの取締役・従業員も殆どストックオプションをもらっているようですから、その人たちの元気付けのためにも、公開が必要なんでしょうね。
今の所、幹事会社の野村證券が頑張って株価は1,000円台ですが、いつまでこれが続くか、これからどうなるか、注目です。
新発の生命保険会社はなかなか黒字にはならないですが、一旦黒字になると安定した収益が見込めます。この株式公開がうまく行って、生命保険会社の好収益性が広く一般に認知されるようになると良いですね。
(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役)