2011年 6月27日  inswatch Vol. 569

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保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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永久債の発行

菅さんの粘り腰で国会の延長は決まりましたが、さて、肝心の国債の発行の方はいつごろ決まるんでしょうか。

いずれにしても国債を発行しなければならないんですから、この際、永久債を発行する、というアイデアはどうだろう、と考えています。

通常の国債は、利付国債で、毎年、元本に対する利息を支払い、満期償還の時に利息に加えて元本を返済する、という仕組みの債券です。

永久債、というのは、満期償還がなく、永久に利息の支払いを続ける、という債券です。

元本の返済は永久にしなくてもいい、ということで発行する方にとって有利なようにも見えますが、その代わりに永久に利払いをし続けなければならない、ということで発行する方にとって必ずしも有利なだけでもありません。でも、お金のない今の政府にとっては、元本の返済をしなくてもいい、というのは魅力的かもしれません。

先月報告した「経済価値ベースの保険負債評価」の試算のレポートでも、保険会社(特に生命保険会社)にとって、負債の期間が長期なのに対してそれに見合う長期の資産が存在しないのでALMがうまくいかない、というコメントがありました。その点、満期償還付きの債券に比べて満期償還のない永久債は非常に長期の資産になります。特に今のように金利が低いときはとてつもなく長期の資産になります。これを使うことができれば、ALMもかなりやりやすくなるはずです。

国債というのは国の借金で、借金は余裕があるうちにさっさと返してしまった方がいい、ということで、日本でもアメリカでもその昔、好景気で税収が順調に伸びていたとき、あと何年で国債は全部償還が終わってしまって資産運用で国債を買うことができなくなってしまう、などと本気で心配していた、夢のような時期がありました。

しかし、国債というのは借金、というだけではなく、国の信用をバックにしたリスクフリーレート(一番信用できる資産運用をした場合の、資産運用リスクを取らない場合の金利)を示す指標をになうもの、という機能も併せ持っています。

金融機関が巨額の資産運用をするようになった時、その運用の指標の一つであるリスクフリーレートというのは重要なインフラストラクチャーであり、そのようなリスクフリーレートをになう国債を発行するのは国の重要な金融インフラストラクチャー整備のサービスの一つです。そのためには、国がいくら財政的に豊かで、借金の必要がなくてもある程度の量の国債を発行し続ける、というのは必要なことです。それも、できれば短期・長期・超長期のリスクフリーレートをバランスよく提供してくれると金融機関はとても助かります。

ましてや今は大震災の復旧・復興資金のために、原発事故の賠償資金のために、国債発行が避けられないことはだれもが認めることです。この際、これをチャンスに日本でも永久債の国債の発行を始めないかな、と思うんですが...多分誰も考えいないでしょうね。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp