2010年 5月24日  inswatch Vol. 512

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【4】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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保険業法一部改正と認可特定保険業者

いよいよ今週は生保会社の決算発表の週です。先週、もう既に決算発表をしている会社もありますが、大所(おおどころ)は今週です。

ギリシャ危機に始まるマーケットの変調もとりあえず決算がしまった後ですから、3月末決算は順調なものになったようです。ここのところ、決算が締まるの を待ってマーケットが大変になる、ということが続いています。

保険会社のほうはまだいいのですが、少額短期保険業者のほうはそれほどうまく行っているようにも見えませんので、決算の結果がどうなるのか、注目しています。とはいえ保険会社のように、決算の開示の制度が整備されていないので、中身をみるにはチョット時間がかかりそうです。

ところで、「保険業法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案」が国会に提出されました。平成18年(2006年)の4月に施行された、無認可共済を特定保険業者とし、少額短期保険業者という制度をはじめた保険業法の改正を、さらにまた改正する、という形の法律です。

一般的には公益法人の共済事業を継続させるための保険業法の改正、という風に解説されていますが、実は公益法人以外の無認可共済も対象とする、もう少し中身のある改正になります。

公益法人制度の改革で、いままで社団法人とか財団法人とか名乗っていた公益法人は、この公益法人制度改革法により、とりあえずは一般社団法人あるいは一般財団法人という形の法人になります。その上で特に公益性の高いものだけが公益社団法人あるいは公益財団法人という形の法人になります。これまでの社団法人あるいは財団法人も公益法人、という名前が示すように公益性のある事業をしている(ということになっている)のですが、新しい制度による公益性の認定はこれまでよりかなり基準が高くなるようで、ほとんどの社団法人・財団法人は、一般社団法人あるいは一般財団法人になる模様です。

この場合、その社団法人・財団法人が行なっていた共済事業は、今の法律では特定保険業者として、一応形だけは保険業法の規制の下に置かれる、という建前のもと、実質的に以前からの無認可共済と同様の事業を続けることができていました。ところがこれが一般社団法人あるいは一般財団法人になったとたん、特定 保険業者ではいられなくなるので、少額短期保険業者になるか、共済事業を辞めるか、とにかく何らかの対応をせざるを得なくなりました。

そこで、一般社団法人、あるいは一般財団法人になったあとも新しく作られる 「認可特定保険業者」という形で共済事業を継続することができるように保険業法を改正しよう、ということが今回の改正案の趣旨です。

ただし、この改正案で対応しようとしているのは必ずしも社団法人・財団法人が行なっていた共済事業に限定されているのではなく、いわゆる一般の無認可共済として行なっていた共済事業も対象としようとしています。とはいえ、一般に無認可共済は任意団体として行われていたものが多いのですが、やはり保険業法で正式に保険事業として規制するためには少なくともきちんとした法人格が必要になります。そこで、そのような団体が一般社団法人あるいは一般財団法人になるのであれば、そのような法人に対して、特定保険業者として行なっていた共済事業の継続を認めよう、ということです。

従来の社団法人とか財団法人とかはそれなりの公益性の認定とかいろいろ面倒なことが多かったのですが、新しい制度に基づく一般社団法人あるいは一般財団法人は、形式要件さえ満たせば登記するだけで誰でも簡単に設立することができるようになっていますので、任意団体を一般社団法人あるいは一般財団法人に組みなおして共済事業を継続するのはあまり難しくないかもしれません。

少額短期保険業というのは保険業法に基づき、金融庁、財務局が監督することになっていますが、新しい制度による一般社団法人あるいは一般財団法人による認可特定保険業者は、社団法人・財団法人から移行する場合については社団法人・財団法人としての主管官庁が監督することになっています。また、それ以外の一般社団法人あるいは一般財団法人による認可特定保険業者は、都道府県が監督することになっています。金融庁としては少額短期保険業者だけでも大変なので、これ以上面倒なことに責任を取りたくない、ということでしょうが、新たに保険業の監督をしなくてはならなくなる都道府県はそう簡単に体制作りができるんだろうか、と心配になります。

法律案は金融庁が作って、内閣提出法律案として国会に提出しているのですが、国会が鳩山さん、小沢さんの政治と金の問題、さらには鳩山さんの沖縄普天間の問題で今日以降、なおさら混乱が予想されますので、なかなかすんなりと成立する、というわけには行かないかもしれません。

ということで、不確定要素は山盛りですが、とりあえず法律案が国会に提出された、という所までの報告です。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp