2009年 5月 25日  inswatch Vol. 460

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【5】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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厳しい生保決算と最低保証変額年金保険

  新年度に入って何ともあわただしいことになっています。新型インフルエンザ の流行もいよいよ本格的になってしまいましたね。
   ハートフォード生命は新契約の扱いを6月1日から停止し、今後は既契約の保全のみを行うと発表しました。極力費用を減らして買い手がみつかるのを待つ、あるいは既契約がなくなるのを待つということになります。

  住友生命も「変額年金保険に係る標準責任準備金積立に関するお知らせ」などとわけのわからないプレスリリースを発表し、(一部の)変額年金保険の売り止めの予定を発表しています。プレスリリースでは【変額年金保険のための標準責 任準備金の積立をしなかったら基礎利益は前年並みだったはずなのに】・・・と まだ決算の全体の発表もしていないのに、そんな言い訳を始めています。かなり苦しい決算発表になるものと思われます。

  ING生命も変額年金保険の売り止めを発表しました。オランダ本社の第1四半期(2009年1月〜3月)決算の発表の中で、「日本では変額年金保険はやめて法人マーケット(経営者保険等)事業に注力する」と言っているのを受け、日本でも同様な発表をしています。もちろんそんな予定通りになる保証はありません。 ハートフォード生命のように、変額年金保険に引き続き法人マーケット(経営者保険等)も続けられなくなることも十分に考えられます。
  いずれにしても変額年金保険の銀行窓販は、保険会社の方も大勢のスタッフを かかえてやっています。それを急にストップするということは、大幅な人員削減が避けられないことになるでしょう。クレディアグリコル・アリアンツ・第一フ ロンティアなど新発の変額年金保険会社、待機中のソニーエイゴン等どうなるのでしょう。

  ハートフォード生命は上記の発表の直後アメリカで公的資金投入が発表されています。AIG以外で本格的な保険会社に対する公的資金投入の最初です。INGはオランダでもう既に去年秋の段階で、公的資金の投入を受けています。

  従来外資系生保というのは、日本の事業がうまく行かなくても親会社がしっか りしているから、という安心感があったのですが、親会社が公的資金の投入を受け、日本の子会社もうまく行かないということになると、本当にやっかいです。 仮に公的資金を投入するとしても、親会社の国(たとえばアメリカ)の公的資金を投入するのか、子会社の国(日本)の公的資金を投入するのかということにな りますが、困ったことに日本ではまだ保険会社に対する公的資金投入ということは行なわれていません。

  ハートフォード生命にしろ住友生命にしろING生命にしろ、決算の苦しい理由は様々な最低保証の付いた変額年金保険です。この変額年金保険の契約が仮に 消滅してしまえば大きな負担がなくなり、負担がなくなった分今まで赤字を計上 していた原因がなくなるので、場合によってはかなりの利益が出てくるかも知れません。

  懸念されるのは、そこを狙ってここで大規模な既契約解約キャンペーンが行なわれることです。保険会社主導で自社の既契約の解約を勧める、というのはおお っぴらにはできないでしょうが、変額年金保険を販売した銀行が、「この生保はもう駄目だから、もっと安全なこっちの会社の(たとえば定額年金の)商品に乗換えましょう」ということで、解約キャンペーンを展開することは十分考えられます。解約される保険会社も新契約を引受ける保険会社も、代理店としての銀行も全員ハッピー、契約者のみの犠牲の上で銀行と保険会社が儲かる仕組です。

  とりあえず積立金は大幅に減ってしまったけれど、じっと我慢して据え置き期間が終われば年金原資は元本保証されるはずの契約が、元本を大きく割り込んだ金額で解約されるということになってしまいます。すぐに解約する場合と据置き期間が終わるまで塩漬けにしておく場合とを比較すると、実は今積立金が元本を大幅に割り込んでいる変額年金保険の契約は、実はとんでもない「お宝保険」ということになります。その分保険会社がその「お宝保険」を解約してもらいたがっているのは、しばらく前予定利率の高い契約を減らすために日本社を中心に大々的に転換キャンペーン・解約キャンペーンが展開されたときと同じことです。
   とはいえ、そのお宝保険も据置き期間が終わる前に引受保険会社が破綻してし まったりすると、そんなことも言っていられないということになりますが。
   とまれ5月もあと1週間。6月に入るといよいよGMの破綻処理も始まる予定で す。

生保会社の決算は先週までにソニー、オリックス、T&Dグループ、損保系各 社、第一生命グループ、かんぽが発表しており、今週は残りの日本社、外資系各社等が発表する予定です。29日の金曜日でほとんどの会社の決算発表が終わる予 定です。

  詳しい決算内容の分析は全社分が出揃ってから、ということになりますが、と りあえず今まで発表されている結果を見る限り、かなり厳しい決算です。第一生命はなんとか無理やり黒字決算をしていますが、資産運用では2兆円もやられて います。第一フロンティアも第一生命の増資と再保険でなんとかつじつまを合わせています。T&Dグループ各社は結局全社赤字決算です。これからすると、29 日に発表する予定の他の日本社、外資系各社の決算が心配です。  
   予定通りの日に決算発表ができない会社があったら大変です。そんな会社があるかどうか、今週は最後まで気が抜けません。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp