2009年 2月 23日  inswatch Vol. 447

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【3】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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生保の第3四半期の決算から見えてくる状況

先々週末、13日の金曜日に生保会社の12月末、第3四半期の決算の結果が発表されました(一部の会社は12日に、残りの会社も週明けの16〜18日には発表しま した)。

予想通り、かなり厳しいないようです。   
マスコミなどでは、朝日と三井が最終赤字で、ほかの大手日本社は黒字、などといっていますが、そんななまやさしいものじゃありません。

現在、注目すべきなのは損益計算書の税引き後利益などではなく、貸借対照表の純資産がどれだけ増えたか減ったか、ということです。

たとえば日本生命の場合、第3四半期の9ヵ月間で税引後利益は465億円の黒字ですが、その間、純資産は1兆9千億円の減少となっています。税引後利益の黒字などとは桁違いの額で自己資本が減ってしまっています。これも、基金を500億円増額し、また、価格変動準備金を160億円、危険準備金を4,540億円取り崩した結果がこれですから、それをしなかったら2兆4千億円くらいの減少になっていたはずです。

この原因は、保有している運用資産の時価が大幅に減少したことです。この運用資産の時価の減少も税引き後で評価してこの結果ですから、税引き前で評価すると純資産の減少は3兆3千億円程度になっていたようです。   日本生命ほどではないですが、第一生命も明治安田生命も貸借対照表上の純資産の減少が8千億円台になっています。日本生命と同じように準備金の取り崩しや税効果を入れないで評価すると、第一生命が1兆8千億円程度、明治安田生命で1兆5千億円程度の減少になっていたようです。

このように見ると、欧米で金融機関が兆円単位で公的資金を投入されているのも理解できます。

念のため、これで日本生命や第一生命、明治安田生命が危ない、といっているわけではありません。これでもまだ、日本生命は1兆6千億円程度、第一生命は8千億円程度、明治安田生命は1兆円程度の純資産が残っているのですから。

今期はこんなにひどいのか、と思うかもしれませんが、実は前期(2008年3月期)の決算でも、あまり騒がれませんでしたが、日本生命は2兆3千億円程度、第一生命は1兆3千億円程度、明治安田生命は1兆1千億円程度純資産が減少しています。2期連続の純資産の大幅な目減りで大手日本社の決算も大変です。それでも純資産がまだたっぷり残っているのですから、2年前はそれだけ財務体質が強固だった、ともいえます。

前期(2008年3月期)の決算でも、2008年3月にいきなりマーケットが暴落し、この第3四半期でも2008年10 月になっていきなりマーケットが暴落して、十分に対応する時間がとれないまま悲惨な決算になってしまった、ということでしょうが、今年も3 月の本決算まであと1ヵ月チョット(とはいえ10 月末からすれば5ヵ月あったことになります)、どこまで決算の見栄えを整えられるか、3月末の決算の数字が注目です。

もちろん、日本生命、第一生命、明治安田生命ほど純資産に余裕のない会社の決算の状況もなおさら注意が必要です。  AIGのほうも心配です。エジソン生命・スター生命も一向に売却話の進展が報道されませんし、AIGグループ全体の事業売却についても聞こえてくるのは小さな話ばかりです。第3四半期の税引き後の損失はアリコ3千億円、エジソン生命1千億円、スター生命450億円ですが、上記のように増資、準備金の取り崩し、税効果を入れないで純資産の減少を評価すると、アリコ4千7百億円、エジソン生命2千4百億円、スター生命1千4百億円となります。

アフラックも今期はかなり厳しいようで、第3四半期の税引後利益は250億円ですが、上記のように増資、準備金の取り崩し、税効果を入れないで純資産を評価すると、1千4百億円程度の減少となっています。

先月の記事の続きですが、この9ヵ月に増資(株式会社の場合)・基金増額(相互会社の場合)・持込資本の増額(外国会社の支店形式の会社の場合)をしたのは日本生命・朝日生命・三井生命・T&Dフィナンシャル・アリコ・AIGエジソン・SONY・オリックス・ING・AXAフィナンシャル・マスミューチュアル・PCA・メットライフ・第一フロンティア・DIYと15社ありますが、この増資がなかったら債務超過になっていた会社はこのうち、アリコ・AIGエジソン・ING・PCA・メットライフ・第一フロンティアの6社でした。

INGは日本の事業もかなり厳しくなっていますが、グループ全体でもかなり厳しいようです。2月18日に発表された決算報告によると、第4四半期の2008年10月から12月までの3ヵ月で純資産を約6億ユーロ(8千億円)減少させており、10月にオランダ政府から10億ユーロ(1兆2千億円)の公的資金の投入を受けた事情がはっきりしました。公的資金の利払いができずにINGが国有化されるかもしれない、という話で先週末には大幅に株価が下がり、16年来の安値になったよう です。INGはアメリカでも銀行業・保険業をしており、アメリカの銀行に対する公的資金援助も受けることができるかどうか、検討中、という話もあります。

全世界的に事業の見直しをしている、とのことですが、日本のING生命はその対象になるのでしょうか。

大和生命の破綻の救済会社の入札が20日に行なわれ、アメリカのプルデンシャル(日本のプルデンシャル生命の母体)が救済会社の候補として決まったようです。とはいえ救済の条件の詰めがまだ終わっていないので、条件次第では救済会社が引き受けるのではなく、保険契約者保護機構が直接引き受けることになるかもしれない、という話が出ています。プルデンシャルがかなり厳しい条件を出しているのかもしれません。

いずれにしても時間の問題です。できるだけ早く決着をつけないと事態はますます悪くなってしまいます。

(生命保険アクチュアリー (株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp」