2008年 11月 24日  inswatch Vol. 434

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【4】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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金融危機と生保9月末決算への影響を読む  

毎回同じような話題になってしまいますが、今回も金融危機の話です。

先月、INGの公的資金投入について触れました。先々週、INGは第3四半期(2008年9月末)の決算を発表しました。ING始まって以来の四半期の585百万ユーロ(700億円程度)の赤字決算、という予想通りの結果ですが、その中身をよく見てみると、純資産が43億ユーロ(5200億円程度)も減少しています。

とはいってもまだ237億ユーロ(2兆8千億円程度)くらいの純資産がありますからすぐにどうにかなる、という状況ではないようですが、100億ユーロ(1兆2千億円程度)の公的資金投入を受け入れたのも十分うなずけます。

これは主として自己資本比率の維持(INGは銀行と保険と両方やっていますから、銀行としての自己資本比率の維持と保険会社としてのソルベンシーマージン比率の維持の両方が必要になります。今回の資本投入はどちらかといえば銀行事業の方の必要が大きかったようです。)のためだったようです。

純資産がこれだけ減ってしまった(にもかかわらず決算の利益はそれよりも1桁小さい赤字でしかなかった)要因は、保有していた有価証券の価値が下がってしまったことです。有価証券の時価の減少(含み益の減少、あるいは含み損の増加)は、売却損・評価損・償還損の形で決算の利益にそのまま反映される部分もありますが、多くの部分は有価証券評価差額、という形で直接貸借対照表の純資産に反映され、損益計算書には登場しません。そのため、金融機関の決算を見るときは損益計算書を見るだけでは本当の姿がわかりません。貸借対照表の純資産 がどれくらい増えたか減ったか、もしっかり確認する必要があります。

INGの決算で見てみると、この(損益計算書には登場しないで)直接純資産に反映される有価証券の時価の減少は、この四半期の3ヵ月間で55億ユーロ(6600億円程度)、2007年12月からの9ヵ月間では143億ユーロ(1兆7千億円程度)になっています。これであれば資本投入の額も十分うなずけます。

この(損益計算書には登場しないで)直接純資産に反映される有価証券の時価の減少は、日本の生命保険会社でも同様で、たとえば2008年3月末の決算では
 日本生命     2兆3千億円
 第一生命     1兆3千億円
 明治安田生命  1兆     円
 住友生命        4千億円
の時価の減少が計上されています。

6月の時点ではこれが少し改善したのですが、9月にはまたかなり悪化しており、現時点ではさらに大幅に悪化しているものと思われます。

時価の減少は株価の低下と為替の円高ドル安、ユーロ安が原因ですが、これらのレートが

日経平均   円ドルレート  円ユーロレー
 2007年3月末     17,287円   117円     157円
 2008年3月末     12,525円   100円     157円
 2008年6月末     13,481円   106円     167円
 2008年9月末     11,259円   106円     149円
 今(2008年11月21日) 9,910円    95円     120円

このように変化していますので、ある程度推測できます。

2008年3月末の決算では2007年3月末と比べて日経平均が大幅に下がったので有価証券の時価が減少しました。その後、6月には日経平均も上がり、円もドル、ユーロに対して安くなったので大分良好な決算になりました。9月では3月末と比べて日経平均もまた下がりましたが、ドルは円安、ユーロは円高になっています。その後の10月11月で上記のように大幅に株安、ドル安、ユーロ安が進行しています。

このままいくと9月末の半期の決算はできたとしても12月末の決算ができない会社が出で来る恐れがあります。

9月末の上半期の決算報告は今のところ生保会社46社中16社だけ発表していて、主だったところは今週の発表になるようです。6月末の第1四半期の決算報告では大和生命が発表できないまま破綻しました。9月末の上半期の決算報告が無事に全社発表できるかどうか、12月末の第3四半期の決算報告が無事にできるかどうか、注目したいと思います。

銀行では自己資本比率の悪化を避けるために金融庁がルールを変更して有価証券の評価損を計算に入れないようにするようです(これは日本だけのルールの変更ではなく、世界的なルールの変更に日本も合わせる、ということですが)。生保会社のソルベンシーマージン比率の計算のルールも変更されるのかもしれません。

ここのところの好決算で、生保会社のソルベンシーマージン比率が多くの会社で1,000%程度になっているのを受けて計算ルールを変更してもっと低い値が計算されるようにしよう、という計画があったのですが、これでは方向が逆で生保会社が苦しくなってしまいますから、とりあえずその計画は当面延期されたようです。

アメリカではこの金融危機で、いよいよビッグスリーの自動車会社も破綻するかもしれない、という状況です。新しい大統領に決まったオバマさんのブレーンが、1929年の大恐慌を解決しようとして行なったニューディール政策を再現しようと検討しているようです。

その昔、中学か高校の歴史の時間では確かにこのニューディール政策でアメリカは大恐慌を解決した、と教わった覚えがありますが、実際はニューディール政策では解決には不十分で、結局のところ太平洋戦争に突入することにより戦争特需によってようやく大恐慌から脱出できた、というのがこの頃では定説になっているようです。

また戦争、というようなことにはなってもらいたくないですね。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役)   
http://www.acalax.jp