2008年 10月 27日  inswatch Vol. 430

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【4】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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欧米保険会社への公的資金投入と事業売却の行方  

毎回同じような話題になってしまいますが、いやはや大変な状況ですね。

大和生命が更生特例法の適用を申請して破綻しました。そのつもりで3月末の決算の資料を見てみると、もう既に実質的に破綻していました。これについては改めて説明しようと思います。

AIG は政府から借りたお金を返すために、事業を売却する、ということで日本の事業がその対象になるのか、注目されましたが、AIG エジソン生命、AIG スタ ー生命、アリコジャパンの生命保険事業をすべて売却の対象とする、ということのようです。

AIG エジソン生命とAIG スター生命は日本の株式会社ですから売却も手続き的 に比較的容易ですが、アリコジャパンはアメリカの会社(アリコ)の支店ですか ら手続きがなかなか面倒です。アリコはアメリカの会社ですが、アメリカでは保 険事業はしていません。アメリカ以外の50〜60くらいの国で保険事業をしていま。これを買収して保険事業を継続しようとすると、会社の所在地のアメリカで の監督当局の承認だけでなく、事業を行なっているそれぞれの国で監督当局の承認を得なければなりません。かなりめんどくさいことになります。売却の対象になっても本当に売却されるか(できるか)どうかはまだわかりません。

AIG は当初、政府から850億ドル(9兆円)の緊急融資を受ける、ということだ ったのですが、これでは足らずにさらに378億ドル、全体で1,230億ドル(11兆円)までの融資が可能になっていて、そのうち既に900億ドルは借りてしまっている、ということです。

AIG というのは積極的な経営で、事業の売却もあっという間にけりをつけてしまうのかと思っていたのですが、予想に反してこの事業を売却した、この事業も売却した、というニュースが流れてきません。

事業をできるだけ高く売ろうと愚図愚図していると、足元を見られて値段がどんどん下がってしまいます。その間、お金はどんどん流失してしまいますから融資の額もどこまで増えることかわかりません。場合によっては本当に資金が足りなくなってしまうかもしれません。

AIGの問題は資金繰りの問題なので、繋ぎ資金さえ用意できれば心配ない、と思っていたのですが、場合によってはもっと悲惨なことになるかもしれません。

ヨーロッパを中心に世界各国で金融機関に公的資金を投入する、という動きが急激に起こっています。その中でオランダ政府はING に対して100億ユーロ(1兆 3600億円)の公的資金を投入する、ということになりました。

この7〜9月期で680億円の赤字が出たから、ということで、あくまで念のため の『予防的』な資金投入ということのようですが、680億円の赤字で1兆3600億円 の資本の追加が必要になる、というのはまるで理屈に合いません。たぶん損益計算書の上では赤字はそれほど大きくはならなくても貸借対照表上では純資産が大幅に毀損しているということでしょう(これも9月末の決算が公表されればもう少しはっきりするでしょう)。  この公的資金の投入と同時にアイエヌジーは台湾の事業の売却を発表しています。AIG ほどではないにしてもING も今後ともほかの事業も売却するかもしれま せん。

先週末は株も為替も大荒れでした。米ドルが90円、ユーロが一時114円まで下 がってしまったようです。この動きはあまりにもスピードが速すぎます。

このように環境が急変すると、もはやひょっとした弾みで何が起こっても不思議ではないことになります。これからしばらく、本当に世の中の動きから目が離せなくなります。

マーケットが大荒れで、金融機関の経営にも不安が増大しています。ついこの前まで銀行が積極的に販売していた変額年金もこれからどうなるのでしょう。急激に販売を縮小したり、既契約を解約させたりする動きが出てくることが懸念さ れます。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp