2008年 9月 29日  inswatch Vol. 426

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【4】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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米国のバブル崩壊と大手銀行の破綻を読む  

直近のインスウオッチ『プロフェッショナルレポート』(9月26日付第60号「アメリカのバブル崩壊と生保会社四半期報告」)でアメリカのバブル崩壊について解説し、「本番はまだまだこれからだ」と書きましたが、状況は急激に進展しています。「これが銀行の大手にまで及んだときが本当のクライマックスです」と書いたのですが、『プロフェッショナルレポート」が出たその日(アメリカでは前日の25日木曜日ですが)、ワシントンミューチュアルという大手の貯蓄銀行が破綻しました。

破綻したとたん、その預金はすべてJPモーガンに買収され、預金は全額保証された、ということのようです。

ワシントンミューチュアルは20兆円くらいの預金残高の銀行だったのが、リーマンブラザーズの破綻の9月15日以降10日間(土日をはさんでいるので実質的には7〜8日でしょう)で2兆円くらい既に引き出された、ということです。

銀行も、預金残高をそのまま現金で保有しているわけではなく、貸付にまわしたり債券を買ったりして資産運用にまわしてしまっていますから、これだけ急激に預金が引き出されてしまうと、更なる支払に充てる現金はもはや残っていないでしょう。この期に及んでお金を貸してくれる他の銀行もありませんから、支払い不能は時間の問題です。その前に急遽、破たん処理をしてしまった、ということです。やはりアメリカはやることが早いですね。

通常、金融機関の破たん処理は週末をはさんで処理されます。金曜日の営業が終わった後破たんが発表され、月曜の朝までにけりをつけて、月曜の朝にはすべて対応できる体制が整っている、というのが普通です。今回のワシントンミューチュアルのケースは、金曜日の夕方まで待つ余裕がなかった、ということです。

対応もすばやく、木曜の夕方に破綻が発表されて、即座に預金はJPモーガンに買収され、金曜日の朝には預金者はいつもどおり、窓口で預金を引き出すことができる、とのことです。

この破たん処理で、公的資金はまだまったく使われていません。日本と同じように、アメリカでも銀行預金は一定額まで預金保険公社(日本では預金保険機構です)で保証されているのですが、今回は買収したJPモーガンが預金の全額を保証して、預金保険公社の負担はまったくなし、ということです。ワシントンミューチュアルの株主、社債を買っていた人、ワシントンミューチュアルに融資していた人だけが損をする、ということでけりがついたようです。

『プロフェッショナルレポート』で書いた75兆円の公的資金の投入は実際、金融機関の救済に効果があるのかどうかもまだわからないのですが、その前に議会でその投入の是非が議論されてまだ結論が出せないでいるようです。日本ではバブル崩壊の初めのころ、信用組合の破たん処理に公的資金(まだその段階では額的にはたいしたことはなかったのですが)を使うことに大きな反対が出て、その結果、もっと大きな金融機関の破たん処理に対しても公的資金を使うのが難しくなり、結果として傷を大きくして必要な公的資金の投入額を大きくしてからようやく処理しましたが、そんなことを思い出しています。

ヨーロッパでは、ベルギーとオランダにまたがるフォーティスというトップクラスの銀行のグループも資金調達や身売りの話で大騒ぎになっているようです。 株価が急落し、預金が急激に流出し始めてしまうと、もはや手の打ちようがなくなり、どこかに買収してもらうしかなくなってしまいます。買収するほうも、大型の金融機関を買収できるのは大型の金融機関くらいしかありません。その金融機関も多かれ少なかれ同じようにこのバブル崩壊で傷ついているので、とりあえず当座はしのげたとしても、いつまた買収した側の金融機関が危なくなるかもしれない、という、かなり厳しい状況です。

ワシントンミューチュアルの話に戻りますが、この銀行の破綻に公的資金が使 われなかった、というのは、やはりこの銀行が貯蓄銀行だった、ということもあると思います。

銀行の救済に公的資金が投入される、その目的は、なんといってもまず第一に信用制度を守るため、ということで、要するに、資金の送金や、決済などが滞ら ないように、ということです。預金者の預金を守ることは2の次ぎ3の次のテーマです。その意味で、AIGの救済も、保険契約者を守る、ということではなく、AIGが破綻することによるクレジットデフォルトスワップ(CDS)の支払い不能による世界中の金融機関の混乱を回避する、ということが主な理由だったように思います。

その意味で、『プロフェッショナルレポート』に書いた『これが銀行の大手にまで及んだときが本当のクライマックスです』というのは、『これが銀行の大手の破たん処理に公的資金が投入されるようになったときが本当のクライマックスです』と訂正したほうがよさそうです。     

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp