2008年 8月 25日  inswatch Vol. 421

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【4】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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事業の吸収分割、少短の動向、生保の四半期決算の開示

無認可共済最大手のエキスパートアライアンスにようやく生命保険業免許が出ました。エキスパートアライアンス保険準備株式会社は会社名をアイリオ生命と変更して事業を開始し、また、既存の共済契約も保険契約の包括移転、という方法ではなく、事業の吸収分割という方法で特定保険業者であるエキスパートアラ イアンス株式会社からアイリオ生命に承継されています(アイリオ生命で引き受けることのできない損害保険型の共済契約は吸収分割の対象になっていないのでエキスパートアライアンス株式会社にそのまま残しています)。

この吸収分割というのは会社法の規定で、会社の事業の一部を分割して他の会社に承継させる(あるいは会社の事業の一部を他の会社に承継させるために分割する)、という手続きで、保険会社の場合、この規定によって引き受けている保険契約もその権利・義務を他の保険会社に承継させることができる、ということになります。契約の包括移転ではないので、事業の吸収分割による承継、ということになります。同種の保険契約の全部を包括して承継させなければならない、という規定は包括移転の場合と同じです。

保険契約の包括移転の場合と同様に、この吸収分割の場合でも契約者の異議申し立て等の手続きの規定もあるのですが、包括移転の場合と比べるとかなり簡略な手続きになっています。これは今後手直しされるかもしれませんが、そうでなければ保険会社間の保険契約の移転は包括移転方式でなく、この吸収分割方式が一般的になるかもしれません。

少額短期保険業者の登録作業も7月上旬の段階で44社に達しています。 既に登録を終え、事業を開始している少額短期保険会社の2008年3月期決算も次第に発表されつつあります。

多くの会社にとって、初めての決算発表なためか、今まで見たことのないような不思議な決算書類も見られます。このあたり、たぶん監督を担当する各財務局でもチェックし切れていないものと思われます。いずれは保険会社並みに決算発表のルールもきちんと整備されるものと思います。

金融庁と少額短期保険会社との情報交換のために『少額短期保険会社社長会』 という会合も既に2回開催されています。

保険会社の場合、生命保険協会や損害保険協会、外国損害保険協会などが一括 して会員保険会社と金融庁との連絡を担当してくれるのですが、少額短期保険会社の場合、まだその役割を果たすような協会がないので(いずれは日本少額短期保険協会がその役割を果たすようになるのでしょうが、今のところはまだそれだけの準備ができていないようです)、社長会、という形を取っているもののようです。

話は変わりますが、生命保険会社の四半期決算の開示が始まりました(正式には四半期決算ではなく四半期報告と呼んでいます。これは、今までも半期決算の代わりに半期報告と呼んでいるのと同様です)。損害保険会社の場合、多くの会社が株式を公開しているため、その立場での四半期決算の開示が当然のこととして行われていたのに対して、生命保険会社の場合は相互会社であったり外国の保険会社の子会社であったりして四半期決算の開示が必要とされていなかったのを、今期から四半期報告の制度を始めたものです。

初回、ということで、報告の様式は統一されていますが、その内容は必ずしも統一されているわけではなさそうです。

まだ、2008年3月期決算の分析も終わっていないのにその次の四半期決算の発表をしてもらってもなかなか分析作業が追いつきませんが、保険会社の担当者にとってもきちんとした報告をするためにはかなりな手間になっているものと思います。決算の担当者はこれで、一年中決算作業にかかりきり、ということになるのでしょう。

開示を増やす、というのは悪いことではないのですが、これをいったい誰がどのように活用するのか、ということになると、ちょっと疑問が残ります。私などにとっては情報は多いほど役に立つのですが、情報を役立てるだけ使おうとする人がどれだけいるのかな、と思ってしまいます。

株式を公開している事業会社の場合、決算の内容をできるだけ早く開示して、それを元に証券アナリストや投資アナリストが分析して決算予想をしたり投資推奨したり、ということで十分活用の範囲が広くあり、また、アメリカなどでは保険会社の数が膨大なため、保険加入に際して保険会社の格付けが活用され、保険会社格付けのために保険会社アナリストなどの活躍の範囲も広いようですが、日本の生命保険会社の場合、そのどちらの需要もあまり多くないのではないか、と思います。  この四半期の開示制度が今後どのように推移していくのか興味深く見ていきたいと思います。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp