2008年 7月 28日  inswatch Vol. 417

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【4】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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変額年金保険「購入手数料ゼロ」の記事  

しばらく前、7月19日の日経新聞(朝刊7ページ)に変額年金保険の記事が出 ました。『「購入手数料ゼロ」広がる』という見出しで、変額年金保険の商品で購入時手数料が不要な商品が広がってきたという内容です。

実際はこの記事の内容とは反対です。日本の一時払変額年金保険は当初全ての 商品が購入時手数料(契約時初期費用)がゼロだったのですが、その後購入時手数料(契約時初期費用)がゼロでない商品も登場し、今は両方のタイプが共存しているという状況です。

当初の商品タイプは契約時初期費用をゼロにする代わり、契約後7年〜15年 以内に解約した場合に、解約返戻金は積立金から解約控除を差引いて計算すると いう形です。

その後去年あたりから出てきたのが、契約時初期費用を取る代わりに解約控除をなしにするという商品で、近頃ではその折衷型として契約時初期費用を半分取り、解約控除も半分にするなどの形の商品も登場し、バラエティに富んできてい ます。

同じ会社で、契約時初期費用を取る商品とゼロにする商品を同時に販売してい ます。

記事では変額年金保険の手数料を投資信託の手数料と比較しています。投資信託ではフロントエンドロードといって購入時にまとまった手数料を取り、あと毎年一定の手数料を取る形が標準ですが、この他にバックエンドロードといって購入時には手数料を取らず、毎年一定の手数料と解約時にまとまった手数料を取る形のものもあります。これは変額年金保険の解約控除をするタイプに似ています。

投資信託ではこの他に購入時にも解約時にも手数料を取らず、その分毎年の手 数料を大目に取るタイプのものもあり、これをノーロード(手数料なし)と言っ ています。ノーロード(手数料なし)という名前で、いかにもお得なように見せ かける商品です。ノーロードと言っても手数料を取らないわけではありません。もちろん商品を販売する時には毎年の手数料についてもきちんと説明されているはずですが、これで売れるということは、商品の中味よりネーミングが大事ということでしょうか。

記事では変額年金保険は初期手数料がかかり、運用期間中も費用がかかり、解約時も手数料(解約控除のこと)がかかり、「投資信託に比べて総じて契約者が 負担するコストが重い」と書いてあります。これもそう一概に言える話ではなく、契約の長短(一般に投資信託は短期で購入・解約を繰り返すのでその都度手数料 を取られるとかえってコスト高になることがあります)、変額年金保険の最低保証(死亡保険金の最低保証・年金額や年金原資の最低保証)のためのコスト(こ の分変額年金保険のコストは当然高くなりますが、逆に投資信託には最低保証が ありません)等々考えると、簡単には結論が出ません。コストだけでなく、変額 年金保険の保険商品としての(投資信託にはない)節税メリットを考えると、多少コストが高くても契約者にとってはお得かも知れません。

最近の変額年金保険商品の積立金の運用は(投資信託でも同様のものがありますが)ファンドオブファンズ方式といって、たとえば株や債券に投資する投資信 託に投資する投資信託に投資する投資信託で運用するといった具合に、投資信託への運用が何段階にもわたっているものが多くなっています。その各段階で手数料が取られることになるので、本当に手数料がどれだけかかるかわからないようになっています。

いずれにしても「世のため人のため購入者のために、自分の取り分の手数料を 返上してお得な商品を提供しています」なんていう話があったら、それは話題のエビの養殖と同じような話だと思った方が良いでしょう。

ところで7月22日の同じく日経新聞(朝刊36ページ)に、新生銀行の広告が出ていました。期間限定"夏のボーナス"というキャッチフレーズで、「元本保証!夏の特別円定期」ということです。銀行の定期預金に『元本保証』という宣伝文句を使うのは初めて見ました。

変額年金保険の積立金の運用先として銀行の定期預金で運用するとすれば、しっかり元本保証のコストの低い商品ができそうです。でもそれ位なら最初から銀行の定期預金に預ければもっと面倒がないですよね。

銀行の定期預金は見た目、手数料ゼロです。全てのコストを予定した資産運用利回りから控除して、そのレベルで預金金利を決めてありますから、表面的には購入手数料も解約時手数料も、運用期間中の手数料も、ゼロです。次はこの「手数料全てゼロ」で定期預金のキャンペーンをやってみるのも面白いかも知れませんね。成果は期待できないでしょうが。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役)  
http://www.acalax.jp