2008年 6月 30日 inswatch Vol. 413
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【6】保険ウオッチング 坂本 嘉輝
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
生保の総合的な資産運用損益を読む
2008年3月末の生保決算、思ったより大変なことになっています。全体の分析 はまだまだかかりそうですが、とりあえず資産運用の所を見てみました。
資産運用は損益計算書上、【資産運用収益】という項目と【資産運用費用】と いう項目にプラスマイナス分けて計上されています(会計では、マイナスの金額 を扱うのを嫌いますので、収益のマイナスは費用としてプラスの金額にします)。 このプラスマイナスを差引すると資産運用損益は
・アリコ |
3,800億円
|
・ハートフォード |
3,700億円
|
・三井住友海上メットライフ |
3,000億円
|
・アイエヌジー |
2,300億円
|
・東京海上日動フィナンシャル |
2,000億円
|
のマイナスとなっています。 これらの会社は変額年金保険あるいは外貨建の区分勘定の商品の会社です。マ イナスの大部分は変額年金の特別勘定資産運用損
・ハートフォード |
3,700億円
|
・三井住友海上メットライフ |
2,800億円
|
・アイエヌジー |
2,400億円
|
・東京海上日動フィナンシャル |
2,100億円
|
あるいは為替差損
・アリコ 4,700億円 ですから、このマイナスはそのまま責任準備金のマイナスになるので、決算上利 益には直接影響しません(変額年金保険の場合最低保証があるので、その分若干
責任準備金の積増しをしなければなりませんが、それもこのマイナスのうちのご く一部です)。
実際、経常利益(損失)は
・アリコ |
384億円
|
・ハートフォード |
88億円
|
・三井住友海上メットライフ |
-202億円
|
・アイエヌジー |
-18億円
|
・東京海上日動フィナンシャル |
65億円
|
とはいえ、保険会社の利益はマイナスにはならなくても、契約者の積立金はこ れだけのマイナスになっています。契約者にとっては大きなダメージです。
また、貸借対照表の純資産の部に【評価・換算差額】という項目で、資産の評 価損益・換算損益が計上されています。
この部分の2008年3月末の金額を2007年3月末の金額と比べると
・日本生命 |
2.3兆円
|
・第一生命 |
1.3兆円
|
・明治安田生命 |
1.0兆円
|
・住友生命 |
0.5兆円
|
その額が減っています。即ち資産の含み益がこれだけ減った、あるいは含み損が これだけ増えたということです。
これらの会社の損益計算書上に示される資産運用損益
・日本生命 |
8,000億円
|
・第一生命 |
4,600億円
|
・明治安田生命 |
3,600億円
|
・住友生命 |
800億円
|
この資産の評価差額の減少は損益計算書の資産運用損益の額よりはるかに大き いので、これを含めるとこれらの会社の実質的な全体としての資産運用収益はマ イナスということになります。予定利息はもちろんマイナスにはなりませんので、 当然逆ざやです。
さらにこの純資産の中の評価差額は税引後の金額ですから、税引前の金額はほ ぼこの1.5倍位の金額になります(税金分は【繰延税金資産】の中に入ります)。 これだけ契約者の持ち分の資産が減ってしまったということです。
日本生命や第一生命が「逆ざやを解消した」などと言うのはどこの世界の話か、 ということです。
しかしながらこの【評価差額】というのは、損益計算書には反映されないで直 接純資産の額をマイナスしてしまうので、損益計算書の利益の額(経常利益とか 当期利益とか)を見る限り、全く気がつきません(損益計算書だけ見れば上記の ような資産運用損益が表示されますから逆ざや解消ということです)。
実際、経常利益は
・日本生命 |
3,100億円
|
・第一生命 |
2,000億円
|
・明治安田生命 |
1,900億円
|
・住友生命 |
1,000億円
|
となっています。
資産運用損益と資産の含み益の増減の2つを合わせた総合的な資産運用収益で 見ると、プラスになっているのはアメリカンファミリーと損保系生保7社(あん しん・ひまわり・きらめき・あいおい・日本興亜・フコクしんらい・富士)と、マス ミューチュアルの9社のみです。
いずれにしても会社の収益の状況が損益計算書の利益を見てもわからない(も ちろん基礎利益など見ても尚更わからないですが)というのは、やっかいな話で す。
また、この資産運用損益の大幅なマイナスが、直接・間接にサブプライムロー ン問題に起因しているとしたら、やはりこれは大きな影響を受けていると言える と思います。
(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役)
http://www.acalax.jp