2006年 10月30日  inswatch Vol. 326

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【4】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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消費者ローンの団体信用生命保険について

消費者ローン(サラ金)につけられている団体信用生命保険が厳しい取り立ての道具になっているのではないかということで、金融庁が調査結果を公表しています。
http://www.fsa.go.jp/news/18/20061006-1.htm

自殺や死因等不詳の保険金支払いが多いので、これこそ「自分の命で借金を返せ」というようなローンの取り立ての証拠だ、というようなマスコミの記事も見受けられますが、この調査結果を見るとそうも言えないように思います。

「死因等不詳」というのが、件数でも金額でも全体の死亡保険金支払の半分位になっているのですが、その平均保険金は50万円程度ということですから、この保険金の支払い(あるいは支払い拒否)のためにわざわざ経費をかけて死因等を確認するのも勿体無い、ということのようです。

この保険は有配当で、しかもかなり高い配当率ですから、死差益の大半は配当で返すことになります。となると死亡保険金を払わなければその分死差益が増え、払わなかった保険金の額をちょっと下回るくらいの金額だけ配当を多く払うことになる、あるいは死亡保険金を払えばその分死差益が減るので、払った保険金よりちょっと少ない額だけ配当金が少なくなりますから、保険金と配当金の合計額で考えると保険会社の収支にとってはどっちでも大差ないということになります。

新聞記事ではあまり注目されていないようですが、たとえば直近の決算の17業者の合計の調査結果では、保険金の支払い302億円に対して376億円の保険料が支払われています。また配当金は37億円ですので、これを差引いても保険会社側の 収支は37億円のプラスということになります。

言い換えれば、この消費者信用団体生命保険はローン会社にとってはコスト(全体の収支が37億円のマイナス)でしかありません。これをやめるということはその分コストが少なくなるので収益にプラスということになります。

保険をつけないで保険金が入ってこなくてもまずその前に保険料を払わなくていいのですから、仮にローンが返済されないとしてもローン会社にとっては損はありません。さらに保険金でローンが返済されないということでその分遺族から返済してもらえればもっと得になります。

消費者信用団体生命保険をやめてしまって「保険がなくても死んだら返済はしなくても良いですよ」という形にしても今までとほぼ同じですから、ローン会社にとっては損得はないようなものですが、ポイントは返済を免除するのがローン会社の費用(損金)にすることができるかどうかです。これを損金にできないとなるとローン会社にとってはその分税金のコストが余計にかかってしまいます。

生保会社にしてみればたいして儲からない商売ですが、多少でも売り上げ(収入保険料)のかさ上げに使えるならということで扱っていて、もしかするとローン会社に対する「資金貸付に対する利息のおまけ」みたいな感覚なのかも知れません。

大した額ではありませんが、この団体信用生命保険をやめてしまうためにこの分を貸付金利の引上げで対処することになると、ローン会社にとってはかえってコスト高になってしまうかも知れません。

消費者ローンの問題は制限金利の問題だけでなく、色々興味深いテーマを提供してくれます。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役)    
http://www.acalax.jp