2005年 10月31日  inswatch Vol. 274

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【4】保険ウオッチング                    坂本 嘉輝

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法人向け節税型貯蓄商品として長期傷害保険に注目

このところ生保業界では、またもや法人向けの節税型貯蓄商品の新商品開発がブームになっています。相変わらず逓増定期保険も次々に新しい商品が登場していますが、近頃のはやりは長期傷害保険です。

ひところ法人の節税は逓増定期という形でネコも杓子も逓増定期だったのですが、この商品は必ずしも全ての法人にぴったり当てはまるわけにはいきません。節税の目標額に比べて経営者の数が少なかったり、経営者の健康状態のために高額の保険に入れなかったりすると、この商品は使えません。

◇法人向けのガン保険

そこで登場したのがガン保険です。ガン保険も一般消費者向けのガン保険は安さが売り物ですが、この法人向けのガン保険は保険料の高さが売り物です。保険料が高い分、解約返戻金が高くなり、保険料が損金扱いできるのであれば、恰好の節税型貯蓄商品になります。

この保険は経営者保険として、法人の中のごく一部の経営者だけを被保険者にするのではなく、役員・従業員の全員を被保険者にすることができるので、それなりの数の社員のいる会社であれば一人あたりの保険料はさほど大きくなくても、社員全体の保険料は場合によっては、役員だけを被保険者とする逓増定期保険より大きくなります。あるいは役員はもう既に逓増定期に入ってしまっていて、さらに節税したいという場合にも活用できます。

◇ 長期傷害保険への注目

ガン保険にこのような使い途があるのであれば、他にも同じようなことができるのではないかと登場したのが、長期傷害保険です。ガン保険はやはり「ガン」という病気が保険給付の対象であり、加入時の選択なども普通の保険より簡単だとは言いながら、やはりちゃんとした手続きが必要です。

これに対して長期傷害保険は、保険給付の対象があくまで不慮の事故を原因と する死亡や障害ですから、被保険者の選択もまるっきり簡単です。

従来はこの傷害保障、災害割増特約とか災害保障特約・傷害特約などの形で、基本的に保険料率は年齢によらず一律で、解約返戻金も全くなしの掛捨て保険でしたから、貯蓄要素は全くなしで、節税型貯蓄保険としては全く使い物にならない商品でした。

保険料が年齢によらずに一定だということは、若い人にとっては保険料が割高、高齢者にとっては割安の保険ということになります。この保険は今でも殆どの会社で扱っていますので、高齢者にとってはお得な商品です。

事故に遭うのは年齢が若くても年寄りでも同じだろうというような気もしますが、現実に災害死亡率は年齢によって、明らかに異なります。死亡だけでなく、入院にしても障害にしても、年齢が高くなるにつれて発生率は高くなります。仮に事故に遭うのは同じだとしても、それが死亡につながったり、入院や障害に つながったりする率が、年齢につれて大きくなるからです。

そのため事故の発生率を年齢別に評価し直しておいて、保障を終身にして保険料を平準保険料とすれば、契約の初めのうちは保険料の殆どを将来に向けて留保しておくことになります。即ち責任準備金に積立てられるということです。そこから解約控除を差引いたものが解約返戻金ですから、返戻率が高くなるのは当然です。

ガン保険と同様、社員全員を加入させれば保険料総額もかなりの金額になります。保障が災害を原因とするものだけですから、掛け捨てなのは明らかです。逓増定期のように、年齢や保険期間によって1/2損金とか1/3損金とかの複雑なルールはなくて、今の所シンプルに全額損金の扱いとなっています。

ガン保険・長期傷害保険と逓増定期保険の大きな違いは、逓増定期保険は返戻率(解約返戻金/既払込保険料)がピークに達した後急激に低下するのに対し、ガン保険や長期長期傷害保険では、かなり長期にわたって返戻率が高いままの状態が続くということです。

ということで、今や長期傷害保険の発売ラッシュです。もちろんこうなると、税制が変わって節税メリットがなくなるぞという話がすぐに出てくるのですが、税務当局も郵政解散で自民党が大勝ちしてしまって、全面的な大増税にまず取り組まなければなりません。ガン保険や長期傷害保険の節税メリットをなくすための税制改正まで手が回るかどうか、見どころです。

(生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.acalax.jp