2003年 12月 1日  inswatch Vol.174

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【4】業界ウオッチング                    坂本 嘉輝

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生保会社の中間期報告と三井生命の株式会社化  

郵政公社の定期付き終身保険の発売問題で業界が騒いでいる中、生保会社の2 003年9月中間期上半期報告が発表されました。

まだジックリ中身を見る時間がありませんが、ざっと見た限りでもなかなか厳しい中間決算のようです。  

郵政公社の定期付き終身保険についてはまた改めてコメントする機会を持ちたいと思います。  

上半期報告に関しては、マスコミの報道では株価の上昇等で業績が良くなった、 というような書き振りが目立ちますが、なかなかそう簡単ではありません。たしかに元大手の日本社各社は株価の上昇で財務状況は改善されていますが、 逆にいえば今回の上半期報告は元大手の日本社各社に関しては株価しかない、と いうことです。もちろん、株価が上昇しても事態があまり改善されない会社もあります。また、株価の上昇だけ、ということは、株価が逆にまた下がってしまっ たらそれだけで財務状況はまたもとの状況に逆戻り、ということになるというこ とです。  

今回の上半期報告を見て感じるのは、元大手の日本社がまだまだ苦しい状況が 続いている、ということだけでなく、他に心配な会社が増えてきたようだ、ということです。破綻して破綻処理を受けた会社、破綻する前に買収された会社のいくつかで財務状況が心配な会社が目立ってきました。破綻会社は新しいスポンサーが出てきたところで営業権を計上していますが、 その営業権を予定通りに償却する負担はやはりなかなか大変なようです。  

破綻した会社、買収された会社はどれも株式会社になっていますので、資本増強には増資をすればいつでもOKですが、親会社も無限に資本投入することはで きないでしょう。その余裕があるうちに何とか経営を軌道に載せることができるかどうか、時間の勝負、ということでしょうか。  

その中間報告の直前に、三井生命は株式会社化の詳しい内容を発表しました。
『組織変更(株式会社化)に関する取締役会決議について』
  http://www.mitsui-seimei.co.jp/corporate/news/pdf/031125_01.pdf
『《添付資料》組織変更計画書(案)』
   http://www.mitsui-seimei.co.jp/corporate/news/pdf/031125_02.pdf  

内容としては既に日経新聞等で報道されているのと同じですが、やはり自己資本の少なさが気になります。9月末で基金1690億円、基金償却積立金10億円で両方あわせて狭義の自己資本が1700億円ですが、これが株式会社化して 資本金と資本準備金の合計で1745億円、殆ど変わりません。9月末でこれ以外に剰余金が1100億円ありますが、これはどのように処理されることになる のでしょうか。  

相互会社の社員である契約者に株式が割り当てられることになるのですが、2 62万人いる社員のうち、1株以上の株を割り当てられる契約者は3600人、 約700人に1人だけが株主になります。これではやはり普通の相互会社の株式会社化、というよりむしろ破綻処理(破綻回避)のための株式会社化、というべきでしょう。資本金もほとんどは基金がそのまま資本金に振り替わるだけで新規 の資金は投入されることはなさそうですから、財務状況の強化にはつながりません。でも株式会社化できるだけまだまし、ということでしょうか。  

これを書いている最中に足利銀行が破綻処理されて公的資金が(1兆円ほど?) 投入される、というニュースが聞こえてきました。繰り返し銀行に公的資金が投入される、その幾分かでも生保会社に投入して生保の破綻処理を進める、という考えは出てこないものでしょうか。         (生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役)