2003年 10月 27日  inswatch Vol.169

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【4】業界ウオッチング                    

坂本 嘉輝

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旧大手生保等4社の配当金支払いもれ

◇特別配当支払いもれ相次ぎ明らかに  

9月末決算(生保の場合は中間報告)はそろそろまとまりつつあると思われま すが、その発表の前に近頃新聞各紙をにぎわせたのが、旧大手生保等4社の配当 金支払いもれのニュースです。   

明治生命が 12万5千件    16億1千万円   
安田生命が 3万件        2億3千万円   
富国生命が 625件      1,015万円   
朝日生命が 3,600件     2億3千万円 と様々です。  

金額的には1件あたりで見るとそれほどの額ではありませんが、このような支 払い漏れが明治生命・安田生命では25年前から、朝日生命では12年前から起 きていて、今頃ようやくわかったということに驚きます。こんなに長い間どうし てわからなかったのかというより、こんなに長い間わからなかったことが、今に なって良くわかったなということです。

◇契約の転換制度と転換前契約データの記録  

報道によれば、転換契約の過去の契約から引き継がれたものに対する、特別配 当の支払いがもれていたということのようです。  

契約の転換制度は色々なやり方がありますが、この配当の所が一番厄介です。 保険料の計算や解約返戻金の計算は、転換前の契約の積立金を一時払保険料の形 で受入れて計算すればよいので簡単なのですが、この特別配当というのは、その 転換前契約がいつ成立していくらの積立金だったかを、きちんと記録しておく必 要があります。

転換制度ができた頃はまだ転換も1回目ですから良かったのですが、同じ被保 険者・契約者の契約が数年おきに何度も転換を繰り返されるようになると、転換 前契約のデータをきちんととっておくというのは、そう簡単なことではないと思 います。  最近では旧大手生保の相互会社であっても5年毎利差配当付・3年毎利差配当 付という実質的に無配当のような契約を主力として扱い、本来的な有配当契約は ほとんど売らなくなってきています。

◇配当の計算と支払いはアクチュアリーの最重要部分だった  

その昔精緻なしくみを作り上げた日本の生保の配当方式も、もはや過去の思い 出にしかならないのでしょうか。その配当方式を維持するためにアクチュアリー 達が積み上げたノウハウは消え去ってしまうのでしょうか。  

私がアクチュアリーとして働き始めた当時、配当の計算と支払いはアクチュア リーとしての仕事の重要な部分だったことを考えると、ちょっと淋しい気がしま す。生命保険のアクチュアリーの仕事の本筋はやはり決算と配当、即ち保険会社 がいくら儲かったか、そのうちどれだけをどのように配当で契約者に還元してい くかということですから。

明治生命と安田生命に業務改善命令などという話も報道されましたが、その前 に既に朝日生命と富国生命が一般に何の公表もせずに追払いをしてしまい(本当 にどこまで払えたかはかなり疑問です。いかんせん10年も前の話ですから)、何 のお咎めもなかった(と思われる)ことからして、多分何もないままなのかなと 思います。  明治生命と安田生命のこの件に関する発表が今月3日、それから約3週間たっ て金融庁からは何の発表もありません。    (生命保険アクチュアリー、(株)アカラックス代表取締役) http://www.linkclub.or.jp/~lax